花かげに咲く、ひとひらの恋
彼は、相変わらず感情の読めない顔で一礼すると、口を開いた。

「……いかがでしたか。初夜は。」

きっと、普通の妃であれば
「滞りなく」
「お優しくしていただきました」
などと答えるのかもしれない。

けれど私は、静かに首を横に振った。

「――初夜も何も、陛下は……私にお手をつけられませんでした」

春明は、ほんの少しだけ、目を伏せた。

そして、何も言わず、ただ黙って私に朝の支度を施した。

その無言の優しさに、私は逆に泣きそうになった。

女は、選びたい放題の立場のはずなのに。

「……陛下にとって、霞様は“最初の妃”。それは同時に、“唯一”という意味でもあるのでしょう」

春明はそれ以上、何も言わなかった。

私はしばらく黙ったまま、両手を膝の上で重ねた。

霞様以外の女には、決して触れない。

それが、あの方の“誠実さ”なのだと、誰もが言う。
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