落ちこぼれ令嬢は2度目の人生で最強の魔獣使いを目指す

第2話

目が覚めるとそこは見慣れない場所だった。

ふかふかのベットと、天井には豪華なシャンデリア。ドアの横には私の専属メイドであろう人が立っている。
彼女は私の目が覚めたことを確認すると、慌てた様子で部屋の外へ出ていき、医者の格好をした男性を連れてきた。

「ティアナ様…っ、目が覚めたのですね…！！あなたが倒れて気を失ってからもう3日も経ったんです…っ。ラピズリー家の方々はもちろん、使用人の皆様方も心配しております…！！よかった…、目が覚めて…っ！」

ティアナ……？
もしかして私のこと？
私は……ティアナ……ラピズリー、なの？

「っっっ！！！！」

途端私は激しい頭痛と、悪寒、吐き気に襲われた。

「「ティアナ様っっっ！！！！」」

専属メイドと先程の医者が声をあげる。

思い出した……！
私は、私には前世の記憶がある！！
なんで思い出せなかったんだろう…？
ん？
ということは、私はもう死んだの！？
じゃあなんで今ここに？
……ああ、なるほど。
前世で漫画とかの読みすぎかと思ってたけど、これはいわゆる“転生”をしてしまったのか。
お父さまとお母さまにはたくさん迷惑をかけちゃったなぁ…。
それにしても、ティアナ·ラピズリー、か。
どこかで聞いたことある。
どこだっけ？

「テ、ティアナ様？」

「………………」

「あ、あの…ティアナ様……？どうかなさいました？」

「…………あ！」

“アレ”だ！
私が前世でこよなく愛していたアニメの「無能剣士は絶対王者(ヒーロー)になりたい」に出てくる魔獣使いの令嬢。
そのアニメを見る時が、落ちこぼれ令嬢だった私の唯一の息抜きだったな。
…ティアちゃんに転生できたんだ、！
あ、でも…ティアちゃんは、令嬢生活が嫌いになってこのラピズリー家からも出ていくはず。
確か12歳になった日に。
なんとしてでも、それを止めないと。
転生した今、ティアちゃんの未来を変えられるのは私しかいない。

「ティアナ様？大丈夫ですか？」

メイドの女性が顔を覗き込み、心配そうに見つめる。

「ご、ごめんなさい。私、自分の名前は覚えているのだけれど、あなたたちのことを忘れてしまったみたいで…。お名前をお聞きしてもよろしいかしら…？」

前世で培ってきた所作と演技で、転生したことに気づかれないように話しかける。

「そ、そうなのですね…。改めまして、ティアナ様の専属メイドを務めております、リリア・マーカスティと申します。」

彼女は小さく微笑み、美しい所作でお辞儀をした。そして私は、彼女の隣に立っていた医者へと目線を移す。

「このルクスアルカヌム帝国で医師をしております、ロキア・シルヴィと申します。」

彼は深々とお辞儀をし、ベッドの横にある机の引き出しを開け、薬瓶を取り出して私に渡した。

「体調が優れないことがありましたら、こちらのお薬をお飲みください。」

「わかったわ、ありがとう。
えっと、そうね…私が倒れる前に何をしていたのか教えてくださるかしら？」

「ええ、もちろんです。」

「よろしく頼むわ。」

「かしこまりました。
お嬢様は魔獣使いのお師匠様と共に死の森(カンクフォレスト)におられました。しかし、そこではぐれてしまい、魔物に襲われたのだと師匠であるルーク様がおっしゃっていました。」

「そうなのね……。」

ティアちゃんは確か、最強の魔獣使いを目指してた。
でも、その旅の途中で主人公をかばった拍子に亡くなっちゃうのよね…。

「あの、申し訳ないのだけれど、私1人にしてくださるかしら？少し考えたいことがあるの。できれば、紙とペンも用意していただけると助かるわ。」

「もちろんです。お嬢様のためならばなんでもいたしますよ。紙とペンはこちらでございます。」

「ありがとう。感謝するわ。」

2人は一礼すると部屋から出て行ってくれた。

「さて、一度頭の中を整理しないと駄目ね。突然のことについていけないわ。」

机に向かい、紙にペンを走らせる。

えっと…まず、夜聖 珠李である私は前世で死んでしまい、「無能剣士は絶対王者(ヒーロー)になりたい」に魔獣使いの令嬢として登場するティアナ・ラピズリーに転生した。
そして、私が転生する…倒れる前には死の森(カンクフォレスト)で師匠のルークという方と修行をしていたのね。

それから黙々と自分の身に起きたことをまとめていると、突然扉の向こうが騒がしくなった。耳を澄ますと、誰かが叫んでいるような声が聞こえてきた。
そしてその時、部屋の扉が勢いよく開く。

「ティアナ…っ！！」

息を切らしながら入ってきたのは、狼の耳と尻尾の生えた獣人族の男性。