茨の冠は恋を知る



 

 「ドレスの色は……赤。そう、真紅で」

 

 彼女は控え室で立ち上がる。
 “貴族の娘は花のように咲くもの”──そう言われる夜会。
 ならば今宵は、誰よりも鮮やかに咲いてみせる。

 

 「悪役令嬢」でも、「主役」であることに変わりはない。
 人の噂など、演出次第で劇的に裏返るのだ。



 夜会場には、王都の上流貴族たちが集まっていた。
 あくまで形式上の“若手貴族の社交の場”とはいえ、ここでの立ち居振る舞いは、その後の人生を大きく左右する。

 そして、会場の奥。
 登場したリシェルの姿に、ざわめきが走った。

 

 「……あれが“悪評のリシェル嬢”?」
 「まるで……薔薇の女王のようだ」
 「いや、氷の王子と対になるなら……紅蓮の火だな」

 

 真紅のドレスを纏い、背筋を真っ直ぐに伸ばしたその姿。
 表情はあくまで冷ややかだが、視線は誰にも屈しない強さを秘めていた。
 それは、かつての“高慢”などではない。
 堂々と、自らの美しさと誇りを引き受ける姿だった。

 

「リシェル・エレノア・ディアノルト嬢──ご入場!」

 
  


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