夜を導く光、それは赤い極道でした。

【第3話】籠の中の自由


「んな中で、よく生き延びてんよ。おまえ」

「……え?」

「何回、敵組織に狙われてんだよ。それも両方とも俺がいない時に」

「ええと……」

「それなのに、おまえはいつも通りここにいんだから。すげー幸運なやつだよ」

 急に褒めるような言い方をする久我山に澪は困惑し、言葉を返せずにいた。それでも構わずに話を続ける久我山の表情は呆れてはいるものの、眉を下げて、笑っている。

「知ってっか?悪運が強いやつは、この世界では大抵生き延びてんだよ」

「それが何か関係あります?私の状況と」

「おまえが何回、傍迷惑なことしでかしても……こうして笑ってられるってことだな」

 その声音は、今まで聞いた中で一番優しかった。澪は目を丸くしてしまう。予想外のことに、心が追いつかない。

「私、今笑ってません」
 
「じゃあ、笑え」

「え?強制?」

 思わずそんな風に返しても、久我山の言葉は変わらない。

「籠の中の鳥って、おまえ自分のこと言ったな?」

「条件付きでの自由の比喩で言いましたね。その後、くーちゃんに翼が折られるよりはマシだろとも」

「おまえは窮屈な意味でとったかもしんねぇけど、俺らからしたら逆だよ」

「どういう……」


 
 

「俺らが守ってやれるラインの中で、好きなように羽ばたけって意味だよ」


 

 久我山は澪を見つめる。目を細めて、頭に手を伸ばす。優しく、ただ撫でられる。てのひらから温もりが伝わる。

「あん時あーすればとか、今さら意味ねぇよ。んなこと考えるなら前を見てたほうがよっぽどいいわな」

「っ……」

 久我山の言葉が澪の中にじんわりと沈み染み込んでいく。今日の出来事で悩んでしまったことを、自分の行動の愚かさを嘆き続けてしまったことを、無意味だと一刀両断してくれる。

 それが、どれほどうれしかったか。どれほど心強かったか。久我山にはきっと想像もつかない。けれど澪には、何よりもありがたいもので……

 

「やっぱり、くーちゃんは私の最高の護衛です」

 

 背中を押してくれる存在に、心から感謝をしたのは間違いなかった。


 そんな澪の頭をもう一度撫でて久我山はバシッと背中を叩く。ふらつきそうになる澪を見て、ひと笑いし「さっさと寝ろ」と澪の部屋の襖を開けた。

「わ、いつのまにか目の前にお部屋とはワープでもしました?」

「おまえが、くだらねぇことでぐちぐちうるせぇ間にな」

「言い方に悪意を感じますね」

「はっ、調子戻ってきたじゃねぇか。こっちが何言ってもしつこいのが取り柄だもんな」

「やはり悪意ですね。護衛失格ですよ」

「さっきまで泣きそうな顔でいた奴がよく言うぜ」

「今日のくーちゃん優しかったり意地悪だったり忙しいですね」

「おまえが、俺との約束破って連絡入れなかったからな」

「ぐうっ……それは、すみません」

「今後は気をつけろよ。そばにいなきゃ、守ってやれねぇんだからな」

 久我山の顔を澪は見つめる。目が合うと、薄く笑ってくれる。それだけで、ここにいていいのだと言われてる気がする。

「……ありがとう、ございます」

「おう。早く寝ろよ?」

「はい。おやすみなさい」

「おやすみ」

 久我山は澪が部屋に入るまで見守り、その襖が閉まると小さく息を吐いて来た道を戻った。監視対象とはいえ、あの能天気が、ここまで落ち込むとは……

 子どもってのは……つくづく、めんどくせぇ。

「本当、()()()()()だな」

 久我山の呆れた声が、静かに消えていった。



 ────……
 

「んっ……」

 澪は、伸びをして布団から起き上がる。久我山と別れた後そのまま布団にダイブして今の今まで眠っていた。スマホで時間確認すると既に昼。

 しかし空腹ではないし、だからといって何かをしたいわけでもない。縫ってもらった首の痛みは少しあるが、それもたいしたことではない。

 つまり、することがない。


 澪はとりあえずシャワーを浴びて、服を着替えた。そういえば昨日からここのクローゼットの服を拝借しているがいったい誰のセンスで選んでいるのだろうというラインナップばかりだった。

 Tシャツにデニムというものから、ワンピース、はてはどの場面で着るのかわからないようなスケスケの布面積が少ないものまで。

 澪はスケスケの下着のような服を手に取りマジマジと見つめる。可愛いとかやらしいとかよりも思ったのは……

「防御力低そう」

 それに尽きる。
 こんなくだらないことを考えられるほど、久しぶりに“普通の悩み”をしている自分に気づいて、澪はなんだか笑えてきた

「おい、起きてるか?」

 扉の向こうから久我山の声が聞こえ澪はクローゼットを閉めると、そちらへ向かった。


 ────

 鳥籠じゃないんだ。
 それは君が飛べる、
 世界でいちばん安全な空。

 君を守れる範囲に、
 いてくれたら──

 僕らは何度だって、
 君の翼を信じられる。

 
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