夜を導く光、それは赤い極道でした。
【第4話】信じる勇気
「くーちゃん、おはようございます」
「おう、よく寝れたか?」
「バッチリです」
「首は?」
「こちらも痛みはありませんね」
「無理はすんなよ。で、飯は?」
「お腹すいてないんですよね」
「なんか食わねぇと倒れんぞ」
「じゃあチョコください」
「菓子は却下」
「えーー」
「えーじゃない」
いつも通りのやり取り。それのありがたさを噛み締めて澪は気になっていることを尋ねる。
それは、ずっと心にいる人のこと。
「ジロは、帰ってきましたか?」
「おう、あいつも明け方もどってきたから今頃寝てんじゃねぇのか?」
「そうですか」
寝てるのならば話は無理かと澪が少し落ち込むと、久我山から信じられない提案をされる。
「押しかけるか?」
「はい?いやいや、疲れて寝てるのに?」
「用があるなら起こして構わねーよ」
「そんなたいした用ではないです」
「嘘だな」
久我山はニヤッと意地の悪い笑みを浮かべていた。
「ずっと真次郎のことが気になって仕方がねぇのによく言うぜ」
「そんなつもりはないですけど?」
「言ったろ?しつこいのが取り柄なんだからよ、おまえは。いつもの調子で、あいつのところでわーわー言っとけよ」
「そんな人を騒音扱いしないでください」
「その方が、あいつも助かるだろうよ」
久我山の呟きに澪は首を傾げる。助かるとはどういうことなのか。寧ろ迷惑でしかないような気がするのに。
「どういう意味です?」
「……あいつも、おまえも似たタイプだからな」
それだけ告げて久我山は歩き出す。澪はその後を小走りでついていった。
******
案内されたのは、屋敷の奥まったゾーンにある部屋。どう考えても、ここが真次郎の部屋だということは話の流れから予想がつく。
「勝手に入れ」
「ノックせずに?」
「どうせ寝てんだから。それよか一発驚かしてやれ」
「寝起きにそんなことされたら大抵の人は怒りますよ。私にそんな愉快なことをさせるんです?寝起きドッキリを」
「スマホ構えてる時点で説得力ゼロだな」
ふざけはしたものの、やはり躊躇う。澪は扉を前にしてなかなか動けない。
「ジロは、私のこと……迷惑と思ってませんかね?」
そんな弱気を唱えてしまうほど、彼に対しては自信がない。あんな風に言わせて、あんな風に謝らせて、あんな風に辛そうな顔をさせて……頭からそのシーンが焼き付いて離れない。
「一番おまえのこと心配してたの、あいつだよ」
そんな澪を励ますように、久我山が淡々と話し出す。
「おまえが部屋から消えたことを報告したら、血相変えて飛び出して行こうとしてたのを抑えるの苦労したぜ」
「うそ……」
「帰って来た時もおまえの怪我の心配ばかりしてたぜ?あいつ」
「そんなこと……」
「だからよ、とっとと安心させてやれよ」
久我山は澪の背中を押す。大きな手のひらで、強く。それが力になる。
澪はぐっと唇を結び、意を決して扉を開けた。それが閉まるのを見届けて久我山は踵を返す。今日の護衛の役はもう無しかもなと、そんな風に考えながら。
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── 迷惑でも、
名前を呼んでくれるなら。
わたしは、もう
扉を開けられる気がする。
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