夜を導く光、それは赤い極道でした。

【第4話】運命の言い訳


 
 他愛のないやりとりをする2人。ここが屋敷の中だとでも思っている2人。けれど、ここは外であり今まさに2人は生徒たちから変な注目を浴びていた。

 それに気づいた真次郎は、さっさと帰ったほうがよさそうだと澪に声をかけようとして……



 

「澪ちゃーん、焼きそばパン忘れてるよー」

 突如現れた倖へと意識を向けた。

「なんと!それはミステイク。ありがとうございます」

「いえいえ。澪ちゃんに食べてもらえないとせっかく内緒でとっておいた意味なくなるからね」

「間違いないですね。倖くんが私のために確保してくれたこのぱん!食べないなんて選択肢ありえませんよ」

「うんうん。うれしいなぁ」

 何やら仲の良さそうな2人に、真次郎の眉間の皺が深くなる。思わず「誰だテメェ」と凄んでしまいそうになるのをぐっと堪えているのを褒めてほしい。なぜ、そんな風に思うのか……その理由を少しでも自覚してはならないと肝に銘じる。

「で、澪ちゃん。こちらのお兄さんは知り合い?」

「はい。ジロは……」

 澪は言葉に詰まった。なんと答えればいいのかわからないからだ。極道の人ですと言うわけにはいかない。そうなると友達というのが正しいのか?真次郎と自分が?なんだか少し違和感がある。

 

「そうですね、えーと?そう、運命的に出会ったんです」

 どう言おうか悩んだ結果、咄嗟に出たのはそれだった。澪の発言に真次郎は呆れた顔をし、反対に倖は目を細めて興味深そうにしている。

 
 
「へぇ?運命ね」

「そうなんですよ。ある夜、びびっときまして」

「恋しちゃったと?」

「そうそう、恋。……へ?」

「はぁ?」

「あれ?違うの?運命とかいうから、てっきり」

 倖は澪たちの反応に愉しそうに微笑む。真次郎は眉根を寄せて睨みつけた。

「なんで俺がこいつなんかと、ふざけんな」

「なんかとか失礼ですね。私の魅力に気づかないとは愚かなことですよ」

「どこに備わってんだその魅力とやらは。胃袋か?」

「確かにいっぱい食べたら可愛いよなんて言葉もありますし……あながち間違いではないですね」

「大間違いだわ!」

 止まることを知らない2人の会話に倖は笑みを絶やさず、「それならよかった」と唱えると澪の肩を抱き寄せて真次郎と距離をとった。

 思いもよらない倖の行動に真次郎はさらに顔を険しくし、当の本人である澪はされるがまま。

「危ない相手と澪ちゃんが付き合いあるのかって心配しちゃったからさ」

「おい、なに気安く触ってんだ」

「いやだなぁ、守ってるんだよ。危なくないように」

「人を危険物扱いすんじゃねえよ」

「まともそうには見えないからねぇ、きみ。仕方がないかな?」

 明らかな挑発に真次郎の顔は歪む一方で、澪は頭に疑問符を浮かべながら、早くお昼ご飯が食べたいなと……そう思っていた。


「さ、澪ちゃん行こっか」

 倖の腕が、澪の肩から離れない。
 握力はないのに、不思議と逃げられない気がして。
 まるで──首輪をかけられたような、そんな錯覚。

「はい?でもジロが……」

「いいのいいの。もう用事はすんだんでしょ?なら彼にもとっとと退散してもらお」

 愛想のいい笑みを浮かべたまま倖は、校舎へと澪を連れて戻る。その際に少しだけ振り返り、真次郎を見つめて──口元に弧を描いた。
 

「おい、おまえ」

 真次郎が呼びかけるのと同時に、紡がれる。
 

()()()きみに相応しくない居場所だ」

 確かに倖はそう唱えた。その言葉に真次郎は何も返せない。それは自分自身が一番……痛いほど理解していることだから。

 澪は真次郎のことが気になりながらも、目の前のご飯と倖の誘導に逆らうことはできなかった。


 澪たちの影が見えなくなると、真次郎は舌打ちをし踵を返す。


 ──なんなんだよ、くそっ……


 倖の言葉。それはまるで──

 “澪の隣が相応しくない”

 そんな風に、真次郎は告げられた気がした。



「あの倖くん、ジロはいい人ですよ」

 学校生活があるから仕方がないとはいえ、真次郎をあの場に置いてきてしまったことに少し、ほんの少し心を痛めつつ澪は倖に真次郎の話をする。誤解が解けるようにと、願って。

「ジロは本当に……」

「澪ちゃん、もう彼と関わるのはやめな?」

 澪の言葉を遮る倖の声音は、いつもの優しさだけでなく。低く圧を加えているような雰囲気。

「彼は、澪ちゃんとは違うから」

「えーと……?」

「もしそれでも彼といたいなら、俺も黙ってられないかな」

「つまり?」

 倖はニッと愉しそうに口角を上げ、ゆっくりと告げる。

 

「澪ちゃんのこと、閉じ込めちゃう」

 

 ──“檻の中へ”

 

 今までに聞いたことのない声音、見たことのない表情。
 澪はただただ、目を丸くする。

「どこへ、行くんです?」

 

「──()()()()()、かな?」

 

 肩を抱かれたまま……震えた声で尋ねる。彼のいう向かう先は日常(平穏)なのか、それとも──。

「倖、くん?」

 名を呼んでみる。返事はない。澪の鼓動は早くなるばかりだった。


 ────


 笑顔の奥にある、正しさの檻。
 手を伸ばせば、きっと触れられるのに。
 言葉にできないまま、ただ過ぎていく時間。
 気づかないフリで、いいの?
 あの声が、君を閉じ込める前に──。
 


 Fin


 
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