夜を導く光、それは赤い極道でした。

【第6話】ソウルメイト未満


 翌日。真次郎は凛の言う通り仕事が忙しくなったようで、朝も玄関で会うことはなかった。
 事情を聞いていたから驚きはしないものの、澪の中に寂しいという気持ちは確かにある。

「行くぞ」

「はーい、くーちゃん。今日もよろしくお願いします」

「弁当もったか?」

「うっす」

「ハンカチは?ティッシュは?」

「あります。なんか、くーちゃんお母さんみたいですね」

「ふざけんな、おまえが忘れると俺が届けることになんだろが真次郎がいねぇんだから」

 久我山は車を走らせて、澪ははそれを眺める。真次郎がいない。同じ屋敷に住んでいるのに、顔も合わせられない。

「ジロは、大丈夫ですかね?」

「平気だろ。今までももっとやべぇの(こな)してきてんだから。だいたい、あいつ妙に勘がいいから怪我することほとんどねぇし」

「そうですよね。ジロですもんね」

 澪は久我山の話に頷いて、気にしないことにした。


 ******
 

「それで?ジロくんに会えてないから寂しくて泣いちゃうって話?」

「違いますよ、倖くん。ちゃんと聞いてましたか?」

 昼休み。澪は飲み物を買うついでに倖のところで話をする。それは主にクラスメイトには話せない、極道の家の話。
 
「ジロが、朝にわざわざ会いに来てくれて、でもそれは命令だから仕方なくで。私はそれが嫌なんです。たまらなく」

「好きだから?」

「いえ、これは恋とかではありません。もっと、なんというか……うん、崇高な!そう!ソウルメイトのような!」

「運命的って意味では、違わないと思うけど?やっぱり澪ちゃんジロくんのこと意識してるね」

「私は、ジロが大切なだけです。恋とかそういうものの前に」

「なるほどねぇ。だから、ソウルメイトってわけか」

「私とジロにピッタリです」
 
 倖には既に話しているからなのか、なんの抵抗もなく澪は思い悩んでいることをペラペラと喋っていた。語りながら整理するように、澪の頭の中は倖の相槌により、どんどんクリアになっていく。

「やっぱり倖くんに話すとスッキリしますね。お悩み相談室は⭐︎5つです」

「わぁお。高評価どうもありがとう」

 オーバーなリアクションで倖はお辞儀をし、そのまま笑う。この軽いノリが澪は居心地がよかった。

「でも、先見隊なんてなかなか重要だねぇ。ジロくんて、そんな偉いの?」

「幹部ですからね」

「へぇ。人は見かけによらないねぇ」

「それを言うなら倖くんもですよ。購買部の人よりスーツ着てスマートにそつなく仕事をしてそうなイメージですもん」

「まあ俺はなんでも似合っちゃうからね」

 調子良く澪の言葉にネクタイを締めるフリをする倖。澪はおかしくて笑ってしまった。

「なんだか、倖くんのその姿見てみたいですね。転職先はスーツの仕事にしてください」

「ちょっとちょっと、澪ちゃん。この仕事辞めたら、俺と離れることになるよ?いいの?」

「スーツの倖くんが見られるなら、それもまた運命です」

「ええー?悲しい」

 わざとらしく泣き真似をすふ倖は、目を細める。何かを懐かしむような憂いを帯びた表情。澪は首を傾げたが、倖はすぐにいつもの表情に戻した為、聞くタイミングはなくなった。

「さあ、澪ちゃん。そろそろ午後の授業だよ」

「あ、本当ですね」

 澪は飲み物片手に教室へ戻ろうとし、倖に呼び止められる。


 

「まだ、変なやつうろついてるから気をつけてね」

「えー?怖いですね」

「うんうん。でもね、もうすぐ()()になると思うよ」

「ん?そんなことわかるんです?」

「そそ、俺、エスパーだから」

「それではエスパー倖くん。私の気持ちを覗いてみてください」

「んー?チョコが食べたい!」

「正解です!」

「ははっ、じゃあそんな澪ちゃんに。これで頑張って」

 ふざけた様子の倖に澪も悪ノリをして、楽しい時間がそこにあった。澪は与えられたチョコに歓喜して、倖へ手を振る。澪の姿が見えなくなると、倖は小さく息を吐いた。


 

 その口元は、笑みを浮かべていた。

 

 ──それは、優しさか。それとも。


 ────

 
 恋と呼べば、壊れそうで。
 友情と呼ぶには、熱すぎて。

 わたしは、あなたに何を想っているのだろう。

 会えないだけで、寂しくて。
 声が聞こえると、嬉しくて。

 ああもう、

 これは──どうして、こんなに甘いの?


Fin
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