夜を導く光、それは赤い極道でした。

【第2話】氷の下、胸の音


 龍臣(りゅうしん)に連れられて(みお)は屋敷から歩いてすぐの和菓子屋へきていた。イートインスペースのあるそこで、2人は向かい合って座り注文したものを口に入れる。

「んー!冷たくて最高です!期間限定って文字に弱いんですよねぇ」

「わかるわぁ。“今しかない”って魔法の言葉だよな」

 澪は苺白玉、龍臣は黒蜜白玉のかき氷を食べている。どちらも餡子たっぷり、和菓子屋ならではの贅沢な味。

「まんまと術中にハマりましたね、私たち」

「みたらし団子もうまいぞ?」

「えっ、食べます。チョコ団子とかあれば最高なんですが」

「ないけど……チョコ好きなの?」

「だっいすきです。チョコがなければ泣いてしまいます」

「へぇ。……澪は、好きなもんがないと泣いちゃうんだ?」

「感受性豊かなピュアな乙女なので」

「だから、さっきも泣いてたの?」

 突然の爆撃を受けたような感覚に澪は陥る。まさか?何を言っているのだと。

「泣いていませんよ、勘違いです」

「泣きそうにはなってたよな」

「龍臣さん、眼科に行かれた方がよろしいかと。それとも脳の方です?」

「おいおい、そんなに嫌なの?認めるの」

 龍臣は澪の言葉を余裕であしらい、逆に澪が追い詰められていた。澪は眉根を寄せてしまう。真次郎のことで落ち込んでいたこと、それを認めるのが嫌なわけではない。

 ただ……

 

「認めてしまったら、惨めになるじゃないですか」
 

 口にして、初めてその感情に輪郭ができた気がした。
 好きでいれば、うれしくなってしまう。でも、それが相手にとって“義務”だったなら──

「……それって、自分が勝手に期待してただけって、ことになりますから」

 澪は呟く。そうだ、この気持ちを認めたら真次郎がまた会いにきてくれた時に苦しくなる。だって自分は会いたいから。会えたらうれしいから。それを嫌々でやられているのなら、辛い。

 

「やっぱり好きなんだね」

「……そんな、こと」

 龍臣の言葉をハッキリと否定できない。澪はわかってた。倖に話した時から、心の奥底にずっと存在していた。何がソウルメイトだ。何が崇高だ。そんな言葉で片付けられないほど、大切で……

「そんな真次郎に会えてなくて、澪はこんなに落ち込むなんて。可愛いとこあるね」

「……ジロは、私に会うのきっと嫌だと思ってたので。ちょうどいいのでは?」
 
「ん?なんで、そう思うの?」

「だって、ジロはあなたの命令で仕方なく一日一回私に会いにきてました。早くさっさと終わらすように、朝にわざわざ」

 目の前のかき氷を食べる手が止まる。吐き出すのは負の感情。八つ当たりだとわかっている。それでも、止まらない。

「いつも同じ会話。同じやりとり。ある方には、定型文って言われましたよ」

 龍臣がひと息ついた。かき氷を食べ終えて温かいほうじ茶を口に運びながら、ふと目元を緩めて言う。


 

「朝一番に会いたい相手ってことじゃん、それ」

 その言葉に、澪は思わず口元を押さえて俯いた。

「……違いますって、そういうのじゃ」

「へえ?」

 揶揄うような声。でも、揶揄の裏にある何か真っ直ぐな光を、澪は感じ取っていた。

「距離置かれてるって、思いますよ?同じ内容、毎朝されてみてください」

「んー……どうかな?それってさ、嫌だからじゃなくて逆だよ」

「どういう意味です?さっぱりですけど」
 
 澪は俯いたまま、言葉を紡ぐ。仕事が忙しくなる前は、朝の時間にしか会いにこない。それは距離を置きたくて、定型文的な簡易なやり取りで済ますため。
 龍臣が言う“朝一番に会いたい“というのも信じられない。でも、そうでないなら、いったい……

 龍臣は視線を遠くへやり、湯呑みを置く。

 

「俺が、澪をここに入れたのは……ま、おまえのこともあるけど」

「……?」


 
「真次郎のためだよ。あいつには、おまえが必要なんだ」

 

 その言葉はあまりにも真剣で、静かに……ただ、まっすぐに響く。

 澪はそれ以上、なにも言えなかった。


 ────

 会えない朝が増えるたび
 理由を数えてごまかした。
 でも、本当は
 ひとつしかなかったのに。

 

 
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