掃除当番の恋 過去編

第2.3章:ベランダと、肩にかかる静かな重み

掃除も終わり、いつものように道具を片付ける時間。
美術室の外には、教室と同じ広さのベランダが広がっていた。

木目の床、古びた手すり。夕陽が差し込むと、その床が少しオレンジに染まる。
陽たちは先に帰って、1年の2人も窓の確認をして下校していった。

気づけば、残っていたのは真と愛花だけだった。

「……風、気持ちいいね」

愛花がぽつりと呟く。
その声に、真は驚きつつも頷いた。

「はい。空、綺麗です」

「なんかさ、疲れたーって思う日、あるじゃん」

「あります。……理由がわからない日ほど、なんかぐったりしますよね」

愛花はその言葉に小さく笑った。
ベランダの出入り口に腰掛けて、ちょっとだけ膝を抱えるような姿勢で、空を見上げる。

「別に、何が嫌とかじゃないんだけどね。生徒会とか、受験とか、全部ちゃんとやらなきゃって思うと……勝手に疲れんの」

「……そういうの、ちゃんとやってるからですよ」

「真面目か」

「よく言われます」

そのときだった。
愛花が、少しだけ身体を横に倒すようにして、真の肩に寄りかかってきた。

「え……」

「意味とかないよ。ただ、今日は……ちょっと、こうしたかっただけ」

真は動けなかった。
でも、逃げようとも思わなかった。

(近い……あったかい)

ドキドキと鼓動がうるさいくらい鳴っていたけど、
愛花の静かな気配が、それを少しだけ和らげてくれた。

「真ってさ……不器用だけど、ほんと、まっすぐなんだね」

愛花が、ポツリとこぼす。

真は、ほんの少し間をおいて返した。

「……僕、誰にでも優しくしてるわけじゃないです」

愛花が、ふっと息をこぼす。
まるで、それが少しだけ照れくさいように。

「ふーん……そういうとこも、ズルいよね」
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