その恋、連載にしてやるよ〜人気作家に溺れていくなんて、聞いてません〜
でも、それでも私は――彼女の“遅い執筆”の裏にある言葉の厚みを、知っている。

誰よりも、その価値を信じていた。

「……そうかもしれない。でも、彼女には彼女の速度があるの。杉本さん、どうかそれを無視しないであげて。」

そう言いながら、私の中で何かが音を立てた。

もう――私は後戻りできない。

綾香先生を降りたその瞬間から、私の背中には、

**“神堂慧の名を汚すな”**というプレッシャーが貼り付いている。

「じゃ、がんばってください。神堂先生、気難しいらしいですよ。」

「……ありがとう。気をつけます。」

そして私は、自分の机の引き出しから、メモを取り出した。

神堂 慧――

彼の直通番号が、まるで赤い糸のように、私をつないでいる。

3日後。神堂慧先生と会うその日が来た。

指定されたのは、駅から徒歩8分の静かなバー。

入り口の看板に灯る琥珀色のランプが、やけに重たく感じられる。
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