その恋、連載にしてやるよ〜人気作家に溺れていくなんて、聞いてません〜
約束の時間は19時。

時計を確認して扉を押すと、すでに――彼はいた。

カウンターの奥、柔らかい照明の影の中。

足を組み、片肘をついて、グラスを指先で揺らしていた。

私は緊張で喉が渇くのを感じながら、一歩ずつ近づく。

「……すみません。遅くなりました。」

深く一礼すると、彼は座ったまま、軽く頭を下げた。

「神堂慧です。ええっと……」

「岸本美咲です。」

「はい、岸本さんね。」

私の名前を繰り返し、彼はそのままグラスを持ち上げた。

琥珀色のウィスキーが、氷に触れて小さな音を立てる。

口元に触れた瞬間、ほんのわずかに、唇が湿った。

(……この人が、神堂慧。)

端正な顔立ち。どこか疲れているような瞳。

言葉よりも、沈黙のほうが雄弁に思える。

次の瞬間、彼は唐突に言った。

「で、今回の新作。なんかネタある?」

「……え?」
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