その恋、連載にしてやるよ〜人気作家に溺れていくなんて、聞いてません〜
「いや、さ。出版社がどうしてもって言うから、一応話だけ聞こうと思って。岸本さんの持ちネタってあるの? “こういうの、書いてください!”って、あるじゃん?」

初対面でいきなり“ネタ振り”。

普通なら軽く原稿の話をして、お酒を交わしてから、ようやく……という流れじゃないの?

「えっと……今のトレンドで言えば、地味な女性が一夜をきっかけに人生を変えていくような――」

「ふうん。」

グラスの氷が、またひとつ鳴った。

「……じゃあ、岸本さん。君、恋してる?」

「……はい?」

「恋。してるかって聞いたの。」

不意打ちだった。

目が合う。深く、どこまでも覗き込まれるような眼差し。

「恋を知らない女が、“恋”のネタを語っても、面白くないんだよね。言葉に、火がつかない。」

「……」

「俺、恋してる女が好きなんだよ。もしくは、恋してる“最中”の女。」

彼はそう言って、笑った。

いたずらのように、甘くて、少しだけ危険な笑みだった。
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