その恋、連載にしてやるよ〜人気作家に溺れていくなんて、聞いてません〜
低く、甘い声。

熱を含んだその響きに、背筋がぞくりとした。

「はい。本気の恋愛をネタにされても、困ります。」

「へえ。」

「小説はあくまで、疑似的な世界。現実とごちゃ混ぜにされては、読者も冷めますので。」

そう言いながら、私の心が揺れているのが、悔しかった。

彼の存在が、言葉が、肌の近さが――

小説よりもずっと生々しい。

すると神堂先生は、ふっと笑って、

私の顎を指先で、くいっと上げた。

「OK。了解。じゃあ、“疑似恋愛”を、始めようか。」

その目が、まっすぐに私を射抜く。

火の粉のように、心の奥で何かがはぜた。

これは、仕事。

……それだけのはずなのに。

初回の打ち合わせは、都心のホテルのロビーで行われた。

静かなジャズが流れる空間。革張りの椅子と艶やかなテーブル。

なんだか、原稿の話をするというより――

誰かと密会するような空気だった。
< 19 / 61 >

この作品をシェア

pagetop