その恋、連載にしてやるよ〜人気作家に溺れていくなんて、聞いてません〜
プツッと電話が切れた。耳に残るのは、もういない彼の声だけ。

……何?

私はスマホを見つめたまま、動けなかった。

興味深い――ただの“ネタ”だったってこと?

バーで見つめられた時、タクシーの中でのあの眠り、マンションの前で交わしたキス。

ぜんぶ、小説の一部?

あの甘い言葉も、温もりも――私は、ただの登場人物だったの?

力が抜けたように、私はベッドに身体を落とした。

恋なんて、しなきゃよかった……。

そう思ってしまった自分が、何より悔しかった。

翌日。お昼を過ぎた頃、社用スマホに通知が届いた。

――《書き始め、これでいいかな。》

送信者は、神堂先生。

恐る恐る添付ファイルを開くと、そこにはまるで水に溶けるような静かな書き出しがあった。

誰かの日常から、するりと物語の世界へ誘われる導入。

気づけば私は、言葉に引き込まれていた。
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