Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)
5、with you
「涼ちゃ……」
「菫子、もっとこっち」
菫子は首を傾げる。
夫が一向に目覚めないことにほとほと困り果てていた。
平日は仕事だから、休日の朝くらい
のんびりしたいという涼の気持ちは、
十分、分かるが今日は、
二人にとってとても大切な記念日なのだ。
疲れているのに申し訳ないとも思うが起きてほしい。
菫子が格闘し始めて既に小一時間が経過していた。
涼は忘れているのかまだ時間に余裕があると思っているのか、
目覚める気配など一ミリも見受けられない。
宙に腕を彷徨わせて寝言を呟く。
その腕をがしっと掴むと菫子は、むうっと頬を膨らませ、
「起きて…… !! 」
部屋が震えるくらいの大声を張り上げた。
なまじ声が高い分耳に響くはず。
だがどうやら効果はゼロだったらしい。
「このちっちゃさはまさに菫子や」
涼は、捕まれた腕を逆に掴み返し、細い腕を引き寄せると顔に頬擦りした。
いよいよ怪しい。
この男は本当に寝ているのか!?
菫子は突然腕を引き寄せられ、
自然となくなった距離に心臓の音を激しくさせた。
ベッドに肘をつく姿勢になり、側には逞しい涼の腕が。
「ぎゃっ」
菫子は顔を真っ赤にしてうろたえた。
ゆっくりと引き寄せられ顔と顔が触れ合いそうになるといよいよ菫子は、
夫が狸寝入りであることを確信した。
気づくのがいささか遅いが。
しかもお腹を圧迫することを懸念している動作なのでこれは意識的に
やらないとできないことだと感心もした。
抵抗しようと思っても腰を抱かれて動けない。
菫子は夫の茶目っ気が大好きで、寧ろ喜んで応じるのだが、
今日は止めて欲しかった。
「涼ちゃん!? 」
「そこで声出したら雰囲気崩れるやろ」
涼は瞳を開け、悪びれもなく口端を吊り上げた。
「嘘寝してたじゃない」
「いつばれるか思ったんやけど、やっぱ鈍いわ」
菫子の中で血が逆流した。
「何よ!」
「っ」
菫子は、とても言えない場所にカウンターキックをかました。
涼は体をくねらせ呻いている。
「……きっつー」
切れた菫子は大胆なこともやってのけるのだ。
普段の恥らう彼女からは想像もつかない。
「今日のこと忘れてたなんて言わせないわ」
「へ、えっと何やったっけ?」
涼は案の定(あんのじょう)忘れていた。しかも素直に聞き返している。
「……知らない。自分で思い出すのね」
「そんなに怒るとお腹の子に触るで」
「誰のせいよ」
妊娠中で神経が高ぶりやすくなっているせいもあるだろう。
今日の菫子は手がつけられそうにない。
キッ、と涼を睨みつけると寝室のドアを乱暴に開け閉めた。
「信じられない。あれほど約束したのに」
沸騰していた熱が冷めた菫子は
ダイニングの椅子に座りテーブルにうつ伏せた。
「……謝ってこないと許してあげない」
ぐすぐすと泣きじゃくり始めた。
がんがんがんと拳でテーブルを叩く。
「涼ちゃんのばかー! 」