Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

6、Pleasure

柔らかく時は流れる。
 愛おしいという気持ちが、大事なものを育んでいく。
 ソファーの上で旦那様の帰りを待ちながら、
 新しく訪れる未来を思い浮かべる。
 片想いから結ばれた人と、付き合い結婚して
 お腹に小さな命を授かった。
 それは、当たり前じゃなくて舞い降りた奇跡。
 これからが大変だが菫子の気持ちは明るく満たされていた。
 携帯電話を確認する。
 涼は、残業で遅くなるということだった。
「……毎日、ありがとう」
 独りごちて、なぜだか照れる。
 ちゃんと直接伝えておくべき言葉だ。
 チャイムが鳴り響き、菫子は玄関へ向かう。
 扉を開くと、笑顔の旦那様がいた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
 菫子が言い終わるのを待たず、涼は彼女を抱きしめた。
 慌てる隙を与えず、お姫様抱っこをする。
「……遅くなってごめんな」
「毎日ありがとね……」
 ぎゅっ、とスーツの裾を掴む。
 恥ずかしいが、今日は身を任せてみようと思った。
 涼が菫子の顔を見てほっと表情を緩めたからだ。
(おつかれさま……涼ちゃん)
 背中にしがみつく。
 キッチンの椅子に下ろされた菫子は、
「ごはん食べる? お風呂を先にする?」
 新妻らしく問いかけた。
 上目遣いでの問いかけだ。
「無意識やろ……」
「え?」
 涼は小さく肩をすくめた。
「風呂にするわ」
「わかった」
「一緒に入る?」
 耳元に顔を近づけて言われた菫子は、咳きこみかけた。
(耳元に甘い低音はずるいなあ)
「……う、うん」
 まだ入浴は済ませていなかった。
涼の帰りを待っていたのだ。
「自分で歩けるからね!」
 横抱きにされて運ばれてもドキドキして心臓に悪い。
 そういうのは胎教によろしくない。
 妊娠が分かってから触れ合うことは少なくなり、
 些細な触れあいでも心拍数があがってしまう。
 クスッ、と笑った涼は菫子の頭をなでた。
「先に入ってるから、すぐ来るんやで」
 また顔が赤くなった菫子である。


 定期健診からの帰り道、手を繋いで歩きながら、
 涼と菫子は他愛もないお喋りを交わしていいた。
「何か期待も高まるわ。実感沸いてきたなあ」
 しみじみ呟く涼。
「あと二ヶ月やな」
 ほわあっと頭の中で鳥が飛んでいるような表情を
 浮かべているのは妻、菫子。
彼女は妊娠8ヶ月を迎えておりお腹も大分目立ってきていた。
「男と女のどっちやろな。俺と菫子の子やしどっちでも可愛いんやろなあ」
「涼ちゃん、バカ丸出しよ」
 菫子は天然毒吐きさんなのである。
 本人は無自覚できつい一言を放つのだ。
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