Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

6、Pleasure(3)

料理は得意だがお菓子作りは不得手な彼は、菫子の指示通りに
  動いているが、いきいきと楽しそうだ。
「涼ちゃん、子供みたい」
 くすっと笑う菫子に涼はほんの少し頬を赤らめた。
「おもろいんやからしゃあないやろ」
「ふふ。紅茶入れなきゃね」
 菫子は電気ケトルをセットして椅子に座った。
 テーブルクロスの皺を手で直すとにっこり笑った。
 常々憧れていた真っ白なレースのテーブルクロスは汚れ一つない。
 何枚も同じ柄のストックを揃えていた。
「ええ感じ」
 涼は、一度取り出したケーキを竹ぐしで差して焼け具合を確かめた。
「じゃもう一回オーブンにGO!」
 るんるん調子で菫子は号令を出し、
「ラジャ」
 冗談っぽく涼が返答した。
 続いて涼が、生クリームを泡立て始めた。
 泡立ては根気のいる作業なので電動を使う方が楽だが、涼はしゃかしゃかと
 リズムを刻み、クリームをあっという間に角が立つ状態にした。
「涼ちゃん、かっこいい。さすが男の人だわ! 」
 菫子がぱちぱちと拍手する。
「ざっとこんなもんやな」
 とか言いつつ涼はぽりぽりと頭をかいた。
 まんざらでもなさそうである。
「ねえ。涼ちゃんこっち向いて」
 菫子は笑顔満面だ。
「はい、チーズ」
 菫子は手のひらを顔の前に構えてシャッターを切るポーズをする。
 涼は不思議そうな顔になった。
「だってすっごくいい顔してたんだもん」
「撮る真似でええの?」
「忘れられるはずないでしょ」
 想い出は吐息を零す間にも蓄積されていく。
 ちょっとした会話も大切な記憶だ。
 オーブンを見るとケーキが完成間近だというのがうかがえた。
 菫子はキッチンミトンを涼に手渡す。
 涼は喉でくくっと笑った。
「……反則や」
 無意識で虜にする菫子。
 外見も少しふっくらしてママになる柔らかな雰囲気が漂っていて、
 そんな彼女を守らねばと強く感じている涼だった。
 菫子は顔を真っ赤にして俯き加減でお腹に触れている。
 涼は、オーブンから焼きあがったスポンジを
 取り出すと皿の上に引っくり返した。
 綺麗に型から抜けて見た目はまずまずの焼き上がりだ。
 バターを縫ったクッキングシートを剥がす。
 菫子が、ナイフでケーキを半分にスライスし、裏返した皿の上に乗せた。
「ここが腕の見せどころ!」
 皿を回してスポンジにクリームを塗るのだ。
「うっわ。無茶や」
 早くも弱音を吐いた涼に菫子はにっこり笑う。
「じゃあ回転するやつ今度買ってね」
「ええよ」
 涼の即答に菫子は吹き出すのをこらえた。
 菫子が切った苺を生地の上に乗せて生クリームを塗り、
 半分にスライスした生地を重ね合わせて仕上げにかかった。
 普通にヘラで塗るよりも絞り袋で飾る方が難しい。
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