Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

6、Pleasure(4)

少し斜めにしながら慎重に絞り出していく。
 真剣そのものの表情の涼を見て、菫子は彼の会社での姿が浮かぶ気がした。
「よっしゃあ! こんなもんでどうや?」
「うん、すっごくいい感じ! 後はここに苺を置いてっと」
 菫子が苺を等間隔にデコレーションケーキの表面に載せていった。
 最後に26本のろうそくを飾って完成だ。
 ふと顔を上げた時、涼の顔の一点で視線が止まった。
「あ、涼ちゃん」
 菫子は背伸びをして涼の頬に唇を寄せた。
 ふいをつかれた涼は、目を見開いて驚いている。 
「生クリームついてた」
 ぺろっと唇を舐める菫子。
「美味かった? 」
「……首が痛い」
 自分でしたことだが相当照れているようだ。
 誤魔化すように別のことを言う所なんて照れ隠しそのものだ。
「そりゃあ。すまんかったな」
 大人と子供分の身長差があれど、心の距離がある二人ではない。
 涼は椅子に座ると菫子の腕を引き自分の膝に座らせた。
「涼ちゃ……」
「これでゼロや」
 膝の上にいる菫子と目線を合わせて、にーっと笑う。
「うん」
 菫子は嬉しそうに頬を緩めた。
「あーん」
 涼は包丁で切ったケーキをフォークで
  突き刺すと丸ごと菫子の口に放り込む。
 口いっぱいに頬張った姿は、まるでリスが
 頬袋に食べ物を溜めている様子にそっくりだ。
「……うぐ」
 一生懸命咀嚼する菫子に、口の端を吊り上げる涼。
 何だかんだ好きな子をついいじめてしまうタイプなのだ。
 愛情たっぷり込めて。
 涼が菫子に顔を近づけると彼女はじたばたもがいた。
 だが腕で押さえつけて逃がさない。
 口を触れ合わせると涼の口の中にもケーキが、運ばれる。
 正確にはほとんど形が残っていないケーキの欠片だが。
 口の端に着いた生クリームをぺろりと舐めてお互いの顔を見つめあう。
「汚いじゃない。そんなことしなくてもまだあるでしょ」
「菫子の口から食べたかったんやもん」
「涼ちゃんって変態だったのね。知ってたけど」
「菫子の前だと我を失くすんやわ」
「誉められてるの?」
 菫子は、真顔で聞いた。
「もちろん」
 平然と返す涼に一瞬考え込んだ菫子である。
「菫子は俺の前で変なことしてまうやろ。
 そういうこと。心許してる者の側にいるからや」
「それなら分かる……かな」
「せやろ」
 涼はよしよしと菫子の頭を撫でた。
「お誕生日、おめでとう。涼ちゃんのお誕生日を祝うのも
 これで六回目だわ。それだけ一緒にいるのね」
「来年は、生まれてきた子供も一緒や」
 お腹を撫でる手つきはとても優しい。
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