Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

6、Pleasure(5)

菫子が25歳の誕生日を迎えた一ヶ月後、涼も26歳の誕生日を迎えていた。
 ケーキを食べるのを再開する。
 次は自分の番とばかりに今度は菫子が、涼の口にケーキを放り込んでいた。
 一口大に切ったものをフォークで刺して。
 もぐもぐと頬を動かしている涼を菫子はまじまじと見つめている。
「美味しい?」
「うん」
 菫子ははにかんで微笑むと涼にぎゅっとしがみついた。
 お腹の膨らみのせいで隙間があるけれど、密着していることは変わりなく。
 木にへばりつく蝉のように抱きついている菫子の髪に、涼は顔を埋める。
「もっと甘えてわがまま言えばええ。まだ俺には足りんくらいや」
 菫子の頬の熱が涼に伝わる。
 椅子がぎしりと音を立てて軋んだ。
「寝よか」
 涼が耳元で、小さく囁いた言葉に菫子はこくりと頷いた。
 身重の菫子を涼は軽々と抱き上げて寝室に運ぶ。
 ベッドに寝かされて、腕枕をされた時になって菫子ははっとした。
「ケーキ、冷蔵庫に入れなきゃ」
「ちょっと位傷まんやろ」
「生ものなんだから」
 起き上がろうとした菫子を制すると涼は、もう一度キッチンに戻った。
 ケーキにラップをかけて冷蔵庫にしまうと寝室に戻る。
 菫子は体を横に向けていた。
「ありがと」
「いえいえ」
 涼は再び隣に横たわると静かに菫子の体を引き寄せた。
 暖房なんて必要ないくらい温かかった。
 優しい温度を保っている菫子に、涼は温められている。
 菫子の髪に触れたままで瞳を閉じて。
 菫子はいつの間にやらすうすうと寝息を立て始めていた。 
 平日に昼寝するのは休日よりずっと贅沢だなと涼はしみじみ感じていた。

 新緑の風が薫る五月。
 いつか夢見ていた二人の愛の結晶が、この世界に誕生した。
 元気な男の子である。
「どっちに似てるかな? 」
 菫子は屈託ない笑顔を夫の涼に向けた。
 涼は出産予定日きっちりに生まれてきた我が子をいとおしげに見つめている。
 その顔は、すっかり父親だった。
 菫子のお腹の中で育つ子供と一緒に
  涼の中の父性も成長していったのだ。
 目尻に浮かんだ涙をごしごしと腕で擦っている。
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