Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

6、Pleasure(6)

「このおっきな目は菫子で、下唇が厚いのは俺?……
 まだ生まれたばかりで分からんわ!」
 涼は声を荒らげた。だが頬は緩めたまま。
「そうね。猿みたい」
 クスクスと声を立てて菫子は笑う。
「手なんて、ぷにぷにや」
 指先で触れてみると余計に温かさが伝わってくる。
 赤ちゃんは体温が高い。
 いつまで見ていても飽きないといった感じの涼。
 菫子は、壊れ物の扱うように我が子を抱く夫の姿を微笑ましく見つめた。
「考えてた名前、覚えてるよね」
 菫子の合図に一緒に息を吸い込んで声を紡ぐ。
「「奏」」
 読み方は「かなで」だ。
 涼の名前とあわせると涼を奏でる。
 男の子と女の子のどっちが生まれてもこの名前にしようと決めていた。
「音楽関係の習い事させたいなあ」
「今から言うのは早すぎ。目ぇ開けてもないのに」
 現実的な涼に菫子は、あははとから笑いした。
 気ばかり急いてしまう。
 この小さな姿に夢が広がる。
「そうね。これからまだたっぷり時間はあるもの」
「それが分かったらもう寝る」
 涼は有無を言わさず布団をかけた。
 産後間もない体に無理は禁物だ。
 生まれてから、一晩経ってはいるが、まだ安静にしていなければならない。
「うん」
「おやすみ」
「おやすみ、涼ちゃん。起きたらまたいるかなあ」
「会社帰りに寄るから」
 菫子は微笑むと、瞳を閉じた。
 涼は名残惜しいながらもベビーベッドの中に、
 我が子を寝かせて病室を後にした。

「かわいい」
 涼との間に生まれた我が子を見つめて微笑む。
 10ヶ月と10日の間、お腹にいた子が
 産声をあげて涼と菫子のもとにやってきた。
 医師に妊娠を告げられる前にも、彼女自身気づく瞬間が
 あったのだが、涼には言っていない。
 待ち望んでいた我が子に会えて嬉しくてたまらない。
 生まれた瞬間、父親の涼がくれた言葉が胸を離れない。
「ありがとう。よう頑張ったな」
 笑顔に大粒の涙を浮かべた菫子は、
 更に涙を流したのだった。


 三人で手を繋いで歩んでいこう。
 辛いことも皆が一緒なら、喜びに変えていけるから。
 宝物を見つけた二人の明日はきっと輝いている。
 終らない未来へ。

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