Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)
番外編「Sweet night(☆☆)」
ささなかなホームディナー。
お家で家族で過ごすのが一番贅沢だと思うの。
スープをかき混ぜて小皿にとって味を見る。
いい感じだ。
テーブルクロスを白にして、花を赤にしてみた。
どちらかの色を淡くするならテーブルクロスの方がよかったのだ。
「……涼(りょう)ちゃん、キャンドル飾ってくれる? 」
「ラジャー」
軽快な返事に吹き出しかける。
彼の明るさはいつだって救い。
細長いろうそくを食器棚の引き出しから出して、涼ちゃんに手渡す。
テーブルの上で灯された明かりが、
ロマンティックな夜を演出している。
涼ちゃんがテーブルの上の準備をしてくれているし、
食事の準備を急がなければ。
「かーな」
どうやら、今度は奏(かなで)と遊んでいるようだ。
名を呼んで笑う。
心底いとしそうに。
顔を見なくても声で分かる。
その姿にじーんとなっているなんて絶対言わないけど。
変なところに注目しているあたりが、彼らしくておかしい。
まだ生まれて半年の赤ちゃんで話せなくても彼は、
真剣に突っ込みを入れて問いかけている。
子供の目線で話せる人なのだろう。
そんな所が羨(うらや)ましくて、見習いたい。
彼はこのまま変わらないだろう。
将来、いい父親になっているのが想像できる。
親父って呼ばせるのだけは勘弁してほしい。
おふくろとか、おかんとか呼ばれるのには抵抗があるんだから。
「ぱ……」
「今のはパパやな。うちの子、天才」
「……ふふっ」
すでに親ばかになっている。
「大人しくしといてな」
奏を看てくれている涼ちゃんを見て、目を細める。
美味しい食卓で喜んでほしい。
パンを皿に盛って、大皿料理を真ん中においてスープの皿を二つ。
「涼ちゃん、座って」
うきうきとした様子で涼ちゃんは椅子に腰を下ろす。
「いただきまーす」
手を合わせて食事を始めた。
「涼ちゃん」
グラスにシャンパンを注ぐ。
弾ける気泡の音。
グラスを合わせて笑いあう。
「ケーキは明日だから」
「ん、楽しみにしてる」
「いつも感謝してるの。
どんなに疲れていても笑顔を絶やさないし、奏の面倒も看てみてくれる。
いいパパでありいい夫の涼ちゃんへの感謝の気持ちを込めて
お疲れ様会を兼ねているのよ」
涼ちゃんの目元に滲(にじ)んでいる雫に、もらい泣き寸前。
「さんくす」
「もう。私が言おうと思ったのに先手を打たないでよ」
くすっと笑った。
だって、笑うしかないでしょ。
「だからね……涼ちゃん、ありがとう。これからもよろしく」
「こちらこそ、ありがとう。菫子は最高の奥さんで幸せやわ」
今度こそぐっときた。手で目元を擦(こす)る衝動に駆られたけど……
涼ちゃんの方が早かった。
「なっ! 」
頬にくちづけされ、思いのほか動揺してしまう。
(不意打ちは卑怯(ひきょう)だわ!)
「食事中に立つのはお行儀が悪いわよ」
「……もっと椅子近づけてや。そしたら立たんでも、ちゅうできるやんか」
「今は食事中なの!」
ぷるぷる。拳が震えた。