Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

番外編「Sweet night(☆☆)」(2)

後で飽きるほど、愛を語るんでしょう。
 待てないなんて駄目よ。
「大声出したら奏に聞こえるで?」
 顔が真っ赤になった。それ言われるのはきつい。
「……うん。夜は長いしね。ちゃんと楽しいこと考えてるから」
「楽しいことってなんやろな」
「た、多分楽しいはずだから」
 うっ、と怯(ひる)んだ。
 お楽しみは考えてある。
 恥ずかしかったけど一回だけだからと言い聞かせて準備を整えた。
 多分、気に入ってもらえるんじゃないかな。
 涼ちゃんってば、あからさまよ。顔に全部書いてあるんだから。
 凄まじい勢いでおかずを平らげる涼ちゃんに呆気(あっけ)に取られた。
(あれ、ってまんざら嘘じゃないかも。
 何とかと食欲は比例するって……)
「おかわりあるわよ」
 顔の筋肉を総動員させて平静を装おうとしたら、引きつった。
「あはは……おかわり」
 涼ちゃんは、手を上げておかわりの合図をした。
 大丈夫?
 その時けたたましい泣き声が聞こえてきた。
「「奏!? 」」
 私と涼ちゃんは、同時に反応した。
ここで息が合ったことに心に温もりが灯(とも)る。
 今のは、もう眠くてしょうがないって泣き声だった。
 最初は慣れなくてもっと大変だったけど、泣き方によって
 何を要求しているのか、掴めるようになったし、
 好きなものだって分かった。
 割と好みははっきりしているみたい。
「片づけしとくわ」
 涼ちゃんの声に、心が軽くなる。
「ありがと、お願いね」
 食器を片付ける音を耳に捕らえ、奏を抱っこする。
 リビングの向こうにある寝室へと奏を連れて行く。
 抱き上げて暫くあやした後、寝室の隅にあるベビーベッドに奏を下ろす。
 頭を撫でて、背中をぽんぽんと叩いてやると、段々と落ち着いてきた。
 ひっくひっくと、しゃくり声が止まる。
 ティッシュで鼻を取って改めてみると鼻が真っ赤になっていた。
「トナカイ? 」
 くすくすと笑って、もう一度頭を撫でた。
 すうすうと寝息を立て始めたのを見て、奏の側から離れる。
「いい子で寝てるのよ」
 クローゼットから、掛けておいたサンタクロース変身セットを取り出して、むうっと考える。
 腕組みして数秒唸(うな)り、顔を赤らめた。
 熱を持った頬を両手で押さえる。
再びクローゼットを開けて中に入れていた袋を取り出す。
 チェック柄の黒いタイツとアニマル柄のスリッパを履く。
 料理中は、履けなかったからここでお披露目。
 とりあえず、戻ろう。
(もう少し時間があればきっと覚悟できるわ)
 ベッドの下にはこっそりと箱を隠してある。
 ドアを開けてリビングに入れば窓辺で外を眺めている涼ちゃんがいた。
 少し距離をとって、見上げればなにやら頬を緩めている。
「何にやにやしてるの? 思い出し笑い? 」
声をかけたら、微かに驚いたらしく上擦(うわず)った声が。
「思い出し笑いのどこが悪いんや」
「正直者のむっつりすけべなんだから」
「奏、寝たんやろ」
「寝たわよ。涼ちゃんに似て寝つきがいいから」
「ええことやないか」
「そうね」
 うん。親のいい所を吸収しているわ。 
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