Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

番外編「初詣での遭遇、ふいうちのキスとバレンタイン」(5)

立っている時より視線が近い。
 空気が変わった気がした次の瞬間、ゆっくりと唇が重なっていた。
 開けていた瞳を閉じる。
 大きな手が頭を引き寄せてそのまま抱きしめられた。
 広い胸の中では、同じくらい早く鼓動が鳴り響いている。
 とん、と両手でついて彼の身体を押し返そうとするけれど
 無駄だった。
 押さえつけられてはいない。
 ただ動けなくて離れられなかった。
 瞳がかすかに潤んだのを目に留めた涼ちゃんが、
 目じりに指を押し当てる。
「……泣かんとって」
 キスされるのは初めてじゃない。
 あの日から少し経った時にも唐突なキスをされた。
 動揺したけどとてもときめいたことに罪悪感を抱いた。
 今はあの時とは違う。
「俺は菫子が大事やで。
 離れたくない気持ちが日に日に強くなってる。
 だから、その内決断して行動に移す予感がする」
(自分で言うのね。
 彼からは情熱しか伝わらなくて
 偽りはどこにもないんだとわかる)
「バレンタインの次はホワイトデーやな……
 三か月ちょい過ぎた頃か」
 彼の意味深な言葉の意味をかみ砕こうとしていた
 私は、まずはバレンタインと気持ちを新たにした。

 大学が始まった初日。
 ランチを食べ終わった後、伊織は楽し気に切り出した。
「チョコレートと一緒に私もあげるとかどう。
 甘いメッセージカードを添えるのよ」
「面白がってるでしょ」
「見ていられないの。
 私は菫子に幸せになってほしいから」
 伊織はチョコレートを贈りたい相手はいても
 贈ることはできない。
 彼女は、私に一生懸命になってくれる分、
 自分に素直にならなければと思う。
(こわいのよ)
「二人とも不器用なんだから」
「恋人になって失うのも怖いのかも……」
「お互い好きなのにぜいたくな悩みよ」
 指摘されてうなった。
「そ、そうよね」
「クリスマスの時を思い返してみると
 草壁君は、機を見計らっているのかなって。
 一気に攻め落とされちゃうかもよ」
「せ、攻め落とされないわ」
「菫子、バレンタインのお返しはなんだろうね?」
 一枚も二枚も上手の伊織。
「涼ちゃんと一緒に私をからかわないで!」
「かわいがってるだけよ」
 ぽん、と肩を叩かれた。

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