Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

外伝「あの日の二人と妹弟」

会社の入社式の帰りに路上で人にぶつかりそうになった挙句、
その姿を人に目撃されていた。
私は小柄なので特に背の高い男性とすれ違う時は、
少し緊張を伴う。
さっきの人は付き合っている人ほとではないが、
20センチは背が高かった。
その赤面の醜態を駅前のロータリー広場に
座るほけほけ美少女に見られていた。
(同い年くらい……かわいかったって何なの)
一年前の夏に病院で検査を受けた際にも
中学生に見えるとか俺様美形(イケメン)ドクターに
言われ、唖然としたがもっと驚いたのが
この二人がカップルだったことだ。
(あのオレサマは美少女ー沙矢ちゃんーを見事に物にした)
「応援はしたけどあれって罠に落ちたのよね。
 私と初対面の時は高校を出たばっかりで
 その一年後に出逢ったってことか」
「ああ……、藤城ご夫妻のことか」
 隣にいた涼ちゃんが、コーヒーを飲みながらつぶやく。
「……ジェットコースターみたいな激しい恋愛ね」
「せやな」
 ぽん、と肩に手を置かれる。
「私と涼ちゃんが結ばれたのは薫さんと別れて三か月経つころだったわよね。
 二十歳になるのを待っててくれたってこと?」
「……」
 涼ちゃんは顎をしゃくり目を背けた。
「両想いとわかってんのに耐えるの辛かったわ。
 いや、別にそればっかちゃうけどな。
 薫と別れた時、菫子はなんて言ったか覚えてる?」
 脳裏に想い浮かべると頬がかーっと熱くなる。
(無邪気に口にした自分が信じられない……)
「女の子が抱いてって言うの勇気が……」
「うん。俺にとってはまるっと過去のことやったけど、全部
 興味津々に聞いてたよな。
 男の気持ちはわからんかったみたいでがくっときたけど」
「……そんな昔のこと忘れてよ! 四年半は前よ」
「全部、いい思い出や」
 肩に腕が回る。
 その腕はおなかにゆっくりと触れた。
「……俺ら、いい親になろうな」
「大丈夫よ」
 頭上から降り注ぐ声に応える。
 結婚する三か月前、婚前旅行に行った時も
 この人との未来に曇りはないと感じたものだった。
 彼となら不安や怖いことも乗り越えていける。
(繋がれた指先から伝わる想いが私を強くしていった)



「偶然だね。
 通路を挟んだ反対側が菫子ちゃんと涼兄(にぃ)の席だなんて」
 ご機嫌な爽くんは、身を乗り出す勢いで
 こちらに身体を向けている。
「はいっ。これ、みんなが大好きな駄菓子のコーンポタージュ味、
 噛んだらガムになるキャンディー」
 二個ずつ、爽くんに手渡した。
「菫子ちゃんありがと!」
「こんなのもあるわよ」
 ラーメンの駄菓子も二個渡した。
「菫子が昨日、駄菓子を収集してたのは
 配るためだったんやな」
「当たり前。
 ただし一人300円まででーす!」
「小学校の修学旅行みたいで楽しいっ」
「爽の分のおやつはお前が用意しろや」
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