Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

外伝「あの日の二人と妹弟」(4)


「美味しそう」
 アーティストのファンが訪れるという聖地のホットドッグショップ。
 悩んだ挙句、全員が同じメニューを頼んだ。
 きゅうりののったホットドッグとお花の名前のついたソーダ。
「……トロピカルな気分。ここハワイやったんや」
「いや神戸」
 夢見心地でソーダを飲む咲来に涼ちゃんは鋭いツッコミを入れる。
「海もあって素敵よね。
 ゆっくり浜辺を歩きたいわ」
 隣に座っていた涼ちゃんが膝の上で手を重ねてくる。
「思い出作りしようか」
「ホットドッグ美味しいよ。ソフトフランスパンなんだって」
 爽くんがケチャップを口の端につけていたので拭ってあげた。
「ありがと……菫子姉ちゃん」
「甘やかしやで。
 爽は、ケチャップがつくのくらい気にせんよな。
 男らしく豪快に頬張っただけやし?」
「ちょっと子供扱いな気がしたけど……嫌じゃないよ」
「よかった」
 咲来は何か言いたそうな顔をしたが、何も言わなかった。
 ホットドッグとドリンク、笑顔の店長さんが素敵なお店だった。
「目的地まで距離があるし電車やな。
 はぐれたらあかんし全員一緒に行こう」
「涼兄、ラジャー!」
「お兄さま、よろしく頼んだで」
「涼ちゃん、頼りにしてるね」
 咲来は、口元をゆがめて笑っている。
「まあ、ほんまは呼び捨てやけどな」
「聞かれたら困ることは、聞こえん所で言え。
 すぐぼろ出すんなら無理すんな」
 涼ちゃんは、呆れたようにつぶやいていた。
「うん。私も涼ちゃんがお兄ちゃんだったら
って思ったことあったけど……
よく考えなくても兄じゃなかったのよね」
「ふーん。その話、また詳しく聞かせてや」 
「いいわよ」
「菫子姉ちゃん、好きな動物ってなに?」
「大型犬が一番好き! 
 もちろん大きい猫も好きだけどね!」
「全部大きいのが好きなんだ。
 草壁家はみんな大きいから菫子ちゃんの聖地だね」
「爽くん、おもしろい!」
 涼ちゃんはもはや気にしないのか私の腰を
 抱いて歩いている。
(少し歩きづらいけど嫌ではないからいいか)
 商業施設の最寄り駅まで電車に乗った。
 たどり着いた商業施設に入ってすぐフロアマップを確認した。
「二個も百貨店入ってて結構広そう」
「本が読めるカフェがあるで。
 ゆっくりできそうやしここ行こうか?」
 涼ちゃんの提案に全員の意見は一致し、ブックカフェに向かった。
 ここはコーヒー、スイーツ、本も楽しめるという
 コンセプトのお店のチェーン店だ。
「クリームソーダにしよっと!」
メニューを見た途端に発言した私に涼ちゃんはくすっと笑った。
「さっきソーダ飲んできたやん」
「今度はスイーツとして楽しむの」
「うん。俺もクリームソーダにしよう。
 種類が多くて悩んじゃうけど」
「……私はケーキ」
「ホットドックだけじゃ足りんかったしカレーにしようかな」
私と爽くんはクリームソーダを頼み、
テーブルに届いたものをすぐ写真に撮った。
(これが映(ば)えるってやつかー)
涼ちゃんの頼んだカレーもとても美味しそうで、
私は思わず釘づけになった。
「菫子、一口食べるか?」
「……悪いわよ」
「気にすんな」
 涼ちゃんにカレーを掬ったスプーンを向けられて口を開ける。
「おいしいっ」
「菫子のその顔見られたら本望やわ」
 先に食べさせてくれたことに感謝しスプーンをナプキンで拭った。
「見せつけられたわ……。
 これがバカップルと旅行する弊害」
「こんな経験、今回が最後だよ」
 目の前で妹と弟が会話する中、二人きりの世界を作ってしまった。
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