Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

外伝「あの日の二人と妹弟」(7)



 郊外の一軒家までは、駅前からバスに乗って移動した。
 暑苦しいことに涼ちゃんはその間ずっと手を握ったままだった。
 二階建てのおうちは和風建築で庭には野菜を植えているプランターがある。
 清潔できちんとしたおうちだと感じられた。
 お母さんの旧姓である表札がかかった家のチャイムを押した。
「こんにちはー」
 声をかけるとすぐに二人が現れた。
「菫子ちゃん、涼兄、おかえりー!」
「涼……久しぶりやね。
 その子が結婚相手のお嬢さん?」
 爽くんと涼ちゃんのおばあちゃんは仲がよさそうだ。
 おばあちゃんは確か80歳と聞いたがしゃきしゃきしたタイプで年齢より若く見える。
「柚月菫子さんや。
 大学で同級生やった人」
「小柄でかわいい子や。
 今日は遠いところ来てくれてありがとうね」
「涼ちゃんのお祖母さまとお会いしたかったんです」
 おばあちゃんは、優しく笑い中へ案内してくれた。
 爽くんは私と涼ちゃんに何か言いたそうな顔をしている。
「どうかした?」
「菫子姉ちゃん、熱でもあるの?
 顔が赤いから」
「昼にお店で測った時も36度の平熱だったわ」
(……まだ顔が赤いなんて嘘よね)
「三年くらいしたらどういうことかわかると思うで」
「ならない。涼兄みたいに一番大事な人を
 いじめて楽しむ人間になるつもりないもん」
 爽くんは顔を朱に染めたのを隠すように背中を向け先を歩く。
 その後ろから室内を目指した。
「咲来のせいで生意気言うようになったな」
「成長したってことじゃない。健太もあっくんも変わらないもの」
 案内された部屋には、おばあちゃんがいてお茶を飲んでいた。
 私と涼ちゃんの分のお茶もやかんから淹れてくれる。
「番茶なんよ」
 飲んだことがなかった番茶は、香りもよく飲みやすかった。
「晩御飯は咲来が作ってくれてるんよ。
 大丈夫かしら」
「……私も一緒に作る約束してたんです」
 慌てて立ち上がる私をおばあちゃんが制した。
「ええんよ。菫子ちゃんはお客さんなんやから
 ここでゆっくりしとき。
 涼との話も聞かせてもらいたいしな」
「……うん。菫子ちゃんと一緒にご飯作るの楽しみやったけど、
 今日は私の特製手料理をごちそうするから」
 台所から現れた咲来はエプロン姿が様になっていた。
 夕食は、ビーフカレーとサラダだった。
 初めて咲来の手料理を食べたけど、
 本当に美味しくて何度もおいしいを連発した。
 涼ちゃんは不愛想で、食べれんことないわとか言っていたが、
 ただの照れ隠しなのはわかっている。
 食後、こたつに入ってみかんを食べていたら
 涼ちゃんがおばあちゃんい真剣な表情で切り出した。
「東京、来る気ないん。
 うちの家、部屋はあるし、みんな歓迎してくれるで」
「涼、ありがとう。
 おじいちゃんが残してくれた家に最後までいたいんよ。
 あんたがここに来てくれた三年間、めっちゃ楽しかったけど……
 やっぱり私は神戸から離れるのは嫌や」
「……そういわれる思ったけどな。
 考えが変わったらいつでも言うて。
 若く見えてもばあちゃん、80やろ……。
 独りで寂しい思いをさせてそのままはこっちもつらいやん」
 涼ちゃんがはっきり言うから苦しい気持ちが伝線した。
「あ、あの……結婚式は来られますか? 四月に挙げる予定なんです」
「おめでとう。もうすぐやね。無理そうやから、
 あとで写真送ってくれたらええわ」
 了承するようにおばあちゃんの手を握った。
 しわがあってもつるつるで滑らかな手だ。
「曾孫の顔もはよ見たいわ」
「見せに来ますから元気で過ごされてください」
「ばあちゃんの願いやしかなえられるよう頑張るわ」
 恥ずかしくなり涼ちゃんの手をつねった。
「菫子ちゃんに無理させたらあかんで」
「そんなんさせへんよ」
 
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