Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

外伝「あの日の二人と妹弟」(8)

 おばあちゃんもノリがいい人なのだろうか。
 普通に言われたので一瞬何のことかわからなかった。
 爽くんは、テレビを見ている。
 地元の放送局の番組で関東では見られないものだ。
「爽も高校受験、頑張り」
「もちろんだよ。俺も咲来姉と同じく早めの卒業旅行だから、
 帰ったらラストスパートがんばるつもり!」
「えらい!」
「菫子ちゃん、お菓子サービスしてくれたしどれだけいい人なの。
 バラエティパックは300円くらいだからちょっとオーバーしてるよ」
「それくらい大丈夫よ。ごはんを奢ってくれたの未来の旦那様だし」
「二人のおかげで楽しい家族旅行になったんやね」
 家族旅行という響きにじーんと感動した。
 これはただの結婚前の旅行ではなく家族旅行なのだ。
 一年前の冬休みとは全く違い、今回は涼ちゃんとずっと一緒にいる。

「……それじゃばあちゃん、元気でな。
 咲来と爽もばあちゃんに迷惑かけんようにせえよ」
「おばあちゃん、色々ありがとうございました。
 咲来、ごはんおいしかったわ!」
「二人も泊っていけばいいのに」
 ほんのりさみしげな一言に、ぐっときたが涼ちゃんは予定を変える気はないようだ。
「また来るから」
「また来ますから」
「今日、あの二人に便乗したのは私らなんよ。
 あとは二人きりにさせたげよ」
 咲来がウィンクしてくる。
「菫子姉ちゃん……
 帰りは一緒じゃないの」
「またマンションに遊びに来てね! 来月はチョコあげるから」
 爽くんがあざとかわいく言ってくるのでバレンタインの約束をした。
 涼ちゃんは少しうっとうしそうだが、こういうやりとりも嫌いじゃない。
 ガラガラと玄関の引き戸を開け、おばあちゃんの家を後にした。
「……楽しかったなあ。おばあちゃん、めっちゃかわいかった」
「うん。頑固やけどかわいいよな」
「あ、伊織に連絡してもいい?」
「この辺におるんやったっけ?」
「三宮で働いてるのよ」
 急で会えないかもしれないが、親友に連絡したらすぐ返信は来た。
『菫子、今神戸に来てるの!?
 会いたかったんだけど……都合悪くて。
 4月には有給取って帰るからその時に会いましょう。
 結婚式、楽しみにしてるからね。神戸、楽しんでね!』
 私も段取りが悪かったのだ。
「やっぱり急だったししょうがないか」
「そうやな」
「……用事があるんだって。
 こっちに来る前に連絡すればよかったな」
「しゃあない」
「でも四月の結婚式の時には上京するって。
 招待状送らなきゃ」
「再会の約束できてよかったやん」
「連絡は取ってたけど卒業してから会えてなかったからね」
 話をしていたらバスが来たので飛び乗った。
 駅に着いて三宮まで戻る。
 少し駅から歩いたところにあるホテルを予約していた。
 地図アプリで確認しながらたどりついた。
 そんなん見んでも俺もおるし迷わんとでも言いたげな人が
 横にいたけど一応念には念を入れたかった。
 建物を見上げた後中に入る。
 予約していた名前を涼ちゃんが告げ、二人で名前を書く。
 エレベーターで宿泊する部屋の階に向かいながら涼ちゃんが、ぼそりと言った。
「……菫子とどっか泊まるの初めてやな」
「そ、そうね」
 意識すると妙に照れてしまう。
「明日も朝早いしお風呂入って寝ましょ」
「……興覚めするようなことを言うな」
 強くつかまれた手。
 見上げると彼は私を熱のこもった瞳で見つめていた。
 エレベーターの扉が開いた時、心臓が暴れだした。




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