Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

3、雨音(2)

 ベッドまで誘導され、同じ布団に入ると、心臓がバクバク騒ぐのを感じた。
 腕枕とともに、菫子のスペースが確保され、自然と抱えこまれる形になる。
「そんなにかちこちにならんでも何もせんから、安心してお休み」
 ぽんぽんと布団が叩かれて、目を閉じる。
 抱きよせられて、涼の腕の中、彼の匂いと
呼吸の音を聞きながら、眠りに落ちていった。
 ぼんやりと、目を覚ます。
 涼の部屋だ。初めて訪れたその夜に、結ばれて朝を迎えた。
 雨の音が聞こえるので、外を見れば
窓に打ちつけるほどの激しい雨模様だった。
「……おはよ、菫子」
 身じろぎしているとすぐ隣りから声をかけられ、頬に口づけられた。
 すっぽりと抱きこまれ、知らない匂いまで体に移ったような。
「……おはよう、今何時? 」
「……さっきテレビつけたら10時回ったところやった」
「やだ、もうそんな時間なの。どうしよう」
「そんなに時間が気になるんか……休みなのに」
 涼は微妙に傷ついた顔をしている。
「寝過ぎたから、涼ちゃんに呆れられたかもって」
 俯いて恥ずかしがる菫子は、いきなり強く引き寄せられた。
 寝返りを打ったらしく、離れていた距離が、一気に狭まった。
「なんや……そんなこと気にしてたんか」
「……今日はずっとベッドの中で過ごそうか? 」
 くっくっと喉を鳴らして笑われ、菫子は、腕の中で暴れた。
「……そうだ、ご飯食べた? 作ろうか? 」
「あ、飯なら、作っといたから」
「……涼ちゃんって料理できたんだ。ちゃんと食べられるの? 」
「失礼な。俺は、定食屋でバイトしてたんやで。今は別の所やけど」
「今は工事現場でしょ……定食屋もわかる気がするわ」
 何となく、腰に巻くタイプのエプロンとか、似合いそうだ。
 ベッドに体を起こして、よく見れば涼は、服を着替えている。
 食事を用意していたことを考えて
寝ている菫子に添い寝をしていただけなのだ。
 涼が先にベッドから出たその後で菫子もベッドの中から抜け出した。
「菫子」
「何、涼ちゃん」
「最高やった。可愛い姿見せてくれてありがとう」
「……っ……改まって何言うのよ……」
 熟れたりんごの頬で、キッと睨んでも涼の痛手になるはずもないのに、
 菫子は照れ隠しのために八つ当たりめいた振る舞いをする。
 恥ずかしすぎて、できることなら全速力で逃げ出したい。
そういう気分は手を繋がれて、にっこり微笑まれたら、
 途端に萎んでしまう。
(素直に甘えていれば、いいのかな。
例え昨日とは関係が変わったとしても急には変われない)
 涼に促されて、隣りに座る。
 向かいあって座るスペースはない。
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