Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)
4、signal(2
さり気なく、距離を離そうとするが、
がっちりと捕まえられていて逃げられない。
運が悪いことに、菫子は奥の席で壁に沿って座っていた。
「あら」
伊織は、楽しそうに笑っている。
目の前に置かれた、ジンジャエールにストローを立てて一気飲みした
菫子は、激しくむせた。
「聞きたい? 」
涼の意味深な問いかけに、伊織は、こくりと頷いた。
「二人で話進めないでよ! 許可した覚えなんてないわよ」
菫子は大赤面して叫んだ。
「……永月は俺らのキューピッドやん。
ちゃんと報告せんと失礼とちゃうか」
もっともなことを言われ、菫子は、口をぱくぱくと開閉させた。
「二人といると和むわ。一緒にいるの自然だって思えるし。
おめでとう。お似合いよ」
改めて言われ、涼も珍しく顔を赤らめた。
菫子は無駄な抵抗を諦めて観念した。
「あ、ありがとう」
「今日は二人に会えてよかったわ」
表情をがらりと変えて伊織はつぶやいた。
どこか儚げで、菫子は思わず彼女の手を握った。
「つらい時は言ってね。何もできないかもしれないけど話ならいくらでも聞けるから」
「つかず離れず側にいてくれて、本当に嬉しい。
連絡してほしい時にくれたり」
「やっぱり何かあったの?」
「……そろそろ覚悟しておかなきゃって思っただけよ」
「伊織……」
「上手くいってくれたことで、どれだけ私を勇気づけてるか。
絶対幸せになってね。草壁君、菫子を泣かせたら承知しないわよ?」
普段より早口でまくし立てる伊織に菫子は気おされていた。
強引な態度は嫌な気分になるほどではないし、
菫子が本当に嫌がることをする伊織ではない。
明るく保とうと必死なのかもしれなかった。
後で、一気に押し寄せたりしなければいいのだけどと菫子は内心案じている。
「大丈夫や。俺の物(もん)になったからにはめいっぱい大事にする。
気になったらいつでも、菫子に聞いたらええで」
「そうね」
右隣の椅子に置いていた文庫本を抱いて、伊織は立ち上がった。
「お二人さん、ごゆっくり。またね」
小さく手を振って、伊織は去っていた。あっけなく。
伊織の姿が完全に見えなくなった後で、菫子は息を吐き出した。
「伊織は大変な恋をしているのに悲しい顔ひとつしたことないの。
弱音を吐きたくないんじゃなくて、不幸だなんて思ってないのよ」
涼は黙って菫子の話に耳を傾けている。
「でも、無理してることに気づいてない。
限界なんて超えちゃってるかも」
「他人(ひと)のことは、よう分かるんやな」
「何よ。茶化してるの」
「人は所詮、他人のことの方が分かる生き物やしな」
菫子は、涼をまじまじと見つめた。
彼が真面目になった時、やたら胸が高鳴ってしまう。
基本的に熱いし生真面目な方だが、
普段のノリとのギャップに弱いのだ。
こういう部分を持った彼が、好きなのだと改めて思う。
「……私もっと早く素直になっていればよかったかな」
「十分間に合ったからええ。俺らはちゃんと始まったやろ」
「そうね」
いつの間にやら雨は上がり、陽の光が淡く降り注いでいる。
「帰ろうか」
それぞれ、飲み物を空にして立ち上がる。
テーブルに置かれていた伊織の分の代金も手にしてレジに向かった。
がっちりと捕まえられていて逃げられない。
運が悪いことに、菫子は奥の席で壁に沿って座っていた。
「あら」
伊織は、楽しそうに笑っている。
目の前に置かれた、ジンジャエールにストローを立てて一気飲みした
菫子は、激しくむせた。
「聞きたい? 」
涼の意味深な問いかけに、伊織は、こくりと頷いた。
「二人で話進めないでよ! 許可した覚えなんてないわよ」
菫子は大赤面して叫んだ。
「……永月は俺らのキューピッドやん。
ちゃんと報告せんと失礼とちゃうか」
もっともなことを言われ、菫子は、口をぱくぱくと開閉させた。
「二人といると和むわ。一緒にいるの自然だって思えるし。
おめでとう。お似合いよ」
改めて言われ、涼も珍しく顔を赤らめた。
菫子は無駄な抵抗を諦めて観念した。
「あ、ありがとう」
「今日は二人に会えてよかったわ」
表情をがらりと変えて伊織はつぶやいた。
どこか儚げで、菫子は思わず彼女の手を握った。
「つらい時は言ってね。何もできないかもしれないけど話ならいくらでも聞けるから」
「つかず離れず側にいてくれて、本当に嬉しい。
連絡してほしい時にくれたり」
「やっぱり何かあったの?」
「……そろそろ覚悟しておかなきゃって思っただけよ」
「伊織……」
「上手くいってくれたことで、どれだけ私を勇気づけてるか。
絶対幸せになってね。草壁君、菫子を泣かせたら承知しないわよ?」
普段より早口でまくし立てる伊織に菫子は気おされていた。
強引な態度は嫌な気分になるほどではないし、
菫子が本当に嫌がることをする伊織ではない。
明るく保とうと必死なのかもしれなかった。
後で、一気に押し寄せたりしなければいいのだけどと菫子は内心案じている。
「大丈夫や。俺の物(もん)になったからにはめいっぱい大事にする。
気になったらいつでも、菫子に聞いたらええで」
「そうね」
右隣の椅子に置いていた文庫本を抱いて、伊織は立ち上がった。
「お二人さん、ごゆっくり。またね」
小さく手を振って、伊織は去っていた。あっけなく。
伊織の姿が完全に見えなくなった後で、菫子は息を吐き出した。
「伊織は大変な恋をしているのに悲しい顔ひとつしたことないの。
弱音を吐きたくないんじゃなくて、不幸だなんて思ってないのよ」
涼は黙って菫子の話に耳を傾けている。
「でも、無理してることに気づいてない。
限界なんて超えちゃってるかも」
「他人(ひと)のことは、よう分かるんやな」
「何よ。茶化してるの」
「人は所詮、他人のことの方が分かる生き物やしな」
菫子は、涼をまじまじと見つめた。
彼が真面目になった時、やたら胸が高鳴ってしまう。
基本的に熱いし生真面目な方だが、
普段のノリとのギャップに弱いのだ。
こういう部分を持った彼が、好きなのだと改めて思う。
「……私もっと早く素直になっていればよかったかな」
「十分間に合ったからええ。俺らはちゃんと始まったやろ」
「そうね」
いつの間にやら雨は上がり、陽の光が淡く降り注いでいる。
「帰ろうか」
それぞれ、飲み物を空にして立ち上がる。
テーブルに置かれていた伊織の分の代金も手にしてレジに向かった。