Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

7、朝帰り(4)

「バイト仲間の男の子に声かけられちゃって」
「ぶはっ」
 涼は、グラスの水を勢いよく吹き出した。
 今回はリアクションが派手なのは彼の方だ。
「なんて声かけられた」
「この後予定あるって聞かれたから、帰ってご飯食べて寝るって嘘ついちゃった」
 涼は、口元とテーブルを拭きながら耳を傾けている。
「それで?」
「送っていくのも駄目だよね。ごめん聞かなかったことにしてって言われたわ」
「……ドへたれでよかったわ」
 涼は、いかにも面白そうに笑いだした。
「付き合ってる人がいるって釘刺しておいたから大丈夫よ」
「上出来やけど、急に不安になってきたな。
 やっぱ迎えに行くわ。別に手間じゃないからそこは気にすんな」
「……でも彼氏の迎えとか他の店員の目も気になるんだけど」
「彼氏がおるの嘘やと思われんですむやろ」
「……うん」
「というわけで場所を言いなさい」
 命令調。しかも目が据わっている。
 菫子は、はっきりと場所を告げた。
「よっしゃ。終わったら店内で待っとくんやで。他の客にまぎれてな。
 外で一人でおったら危ないからな」
「警戒しすぎじゃないかしら」
「阿呆。そいつのことだけ言ってないわ」
「……甘えちゃうじゃない」
「菫子を甘やかすくらいの余裕はあるつもりやから」
 涼は胸を張った。
「メニューはお決まりでしょうか」
 突然の第三者乱入に菫子は、顔を赤らめる。
 場所をわきまえようと自分に言い聞かせた。
「ビーフカレー」
「ぺ、ペペロンチーノお願いします」
「かしこまりました」
 店員を見送った後で、ぷくくくと涼は堪えきれない笑いを洩らした。
「笑い過ぎよ」
「ほんますみれは飽きんなあ。これからもその調子で頼むわ」
「……何か嫌な感じ」
「問題ないで」
 菫子は、内心抗いながらも心が和むのを感じた。
 口で言い合ったりできるのも彼しかいないのだ。
 運ばれてきたペペロンチーノを食べながら、無意識に涼を見た。
 彼は、カレーをかきこむ姿もいちいち男くさかった。
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