Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)
8、マグカップ(3)
がしがしと髪をかき混ぜられ、ぽんぽんと軽く叩かられて
むっとした菫子だったが涼は悪びれない態度だ。
「くっ」
「何時頃、行ったらいい?」
「伊織の都合のいい時間でいいよ」
「分かった。あとで連絡するわね。草壁君、ありがとう」
「気にすんな」
手を振って、伊織は去って行った。
涼は、ヘルメットを菫子に渡した。
「ちょっと待って。伊織に連絡する」
「……早すぎ」
「いいの。タイミングが大事だからね」
菫子は、素早くメールを打ち、伊織に送った。
携帯を閉じると、こちらを覗き込む瞳とぶつかる。
「すみれじっくり話聞くで」
さっきの反応のせいで、勘ぐられている。
菫子はひるんだ。やましいことはないのだが。
「うっ……よろしく」
バイクに乗りこんで、道路へと出た。
「早咲きの桜はもう咲いているのね」
「そこへ連れていくのは無理やけど、また一緒に見に行こうな」
「うん。涼ちゃんのバイク免許って何だっけ」
「普通自動二輪」
「ふうん。そっかあ」
ぎゅっとしがみつく熱い背中。
悔しいけど大好きだというのは嘘をつけない。
風を切って街中を走り抜ける。
マンションに辿り着いた時、部屋まではお姫様だっこをされた。
菫子の必死の抵抗も虚しく、軽々と運ばれてしまったのだった。
「……もう、恥ずかしいのに」
「ベッドに運ぶ時は平気なのに?」
意地悪げな問いかけ。
「……っ」
ここで言い返せなくなるから思うツボなのだろう。
顔を真っ赤にして、反論する言葉を探している間に下される。
ぺたんと座りこんだ菫子の側で、涼はジャケットを脱いでいる。
「ちょ……何脱いでるの」
バッグと雑誌の袋を床に置き、膝を抱えて座っていた菫子は、びくっと過敏に反応した。
「今更恥ずかしがるなや。菫子が意識してたらこっちも意識してしまうやろ」
「……意識なんかしてない」
「そうなんや」
菫子は、本格的に着替えを始めた涼の側から脱兎の如く逃げた。
何故、今シャツまで脱いで上半身裸になるのか分からない。
(なんて人なの!)
台所の椅子に座って、唸る。
「からかいがあるわ」
「聞こえてるわよ」
菫子は聞こえ見よがしな言葉をしっかり聞き咎めている。
「……ツンツンたまらんなあ」
「何なのそれ」
「菫子、好きやで」
ドアを隔てた場所から聞こえる唇が指に触れる音。
ついばむ口づけと近い音に、菫子は、胸が騒ぎだした。
「くさい……キザったらしい」
ちょうどその時メールの着信音が鳴り響き、独り言を聞かれたような気分になって背を震わせた。
サブウィンドウには伊織と表示されている。
『……午後8時すぎに行くわね』
即座に返信をする。
『了解』
「菫子は文字のメッセージにも声を出すんやな」
涼がいつからそこにいたのか、全く分からなかった。
投げキッスを送った後からだろうか。
「いちいち腹が立つわね」
「何しても可愛いからええ」
「くっそー」
悔し紛れに呟くけれど、あははと涼は笑うだけだ。
菫子は立ち上がり、ぴょんと踵を浮かせて、くいくいと指を動かした。
背をかがめる涼に、
「いつか、ぎゃふんと言わせてやるわ」
耳元でささやくと、彼はしたり顔で頷いた。
「楽しみやなあ」
口を動かしながらも夕食の準備をてきぱきと始める涼を見て菫子も積極的に動いた。
むっとした菫子だったが涼は悪びれない態度だ。
「くっ」
「何時頃、行ったらいい?」
「伊織の都合のいい時間でいいよ」
「分かった。あとで連絡するわね。草壁君、ありがとう」
「気にすんな」
手を振って、伊織は去って行った。
涼は、ヘルメットを菫子に渡した。
「ちょっと待って。伊織に連絡する」
「……早すぎ」
「いいの。タイミングが大事だからね」
菫子は、素早くメールを打ち、伊織に送った。
携帯を閉じると、こちらを覗き込む瞳とぶつかる。
「すみれじっくり話聞くで」
さっきの反応のせいで、勘ぐられている。
菫子はひるんだ。やましいことはないのだが。
「うっ……よろしく」
バイクに乗りこんで、道路へと出た。
「早咲きの桜はもう咲いているのね」
「そこへ連れていくのは無理やけど、また一緒に見に行こうな」
「うん。涼ちゃんのバイク免許って何だっけ」
「普通自動二輪」
「ふうん。そっかあ」
ぎゅっとしがみつく熱い背中。
悔しいけど大好きだというのは嘘をつけない。
風を切って街中を走り抜ける。
マンションに辿り着いた時、部屋まではお姫様だっこをされた。
菫子の必死の抵抗も虚しく、軽々と運ばれてしまったのだった。
「……もう、恥ずかしいのに」
「ベッドに運ぶ時は平気なのに?」
意地悪げな問いかけ。
「……っ」
ここで言い返せなくなるから思うツボなのだろう。
顔を真っ赤にして、反論する言葉を探している間に下される。
ぺたんと座りこんだ菫子の側で、涼はジャケットを脱いでいる。
「ちょ……何脱いでるの」
バッグと雑誌の袋を床に置き、膝を抱えて座っていた菫子は、びくっと過敏に反応した。
「今更恥ずかしがるなや。菫子が意識してたらこっちも意識してしまうやろ」
「……意識なんかしてない」
「そうなんや」
菫子は、本格的に着替えを始めた涼の側から脱兎の如く逃げた。
何故、今シャツまで脱いで上半身裸になるのか分からない。
(なんて人なの!)
台所の椅子に座って、唸る。
「からかいがあるわ」
「聞こえてるわよ」
菫子は聞こえ見よがしな言葉をしっかり聞き咎めている。
「……ツンツンたまらんなあ」
「何なのそれ」
「菫子、好きやで」
ドアを隔てた場所から聞こえる唇が指に触れる音。
ついばむ口づけと近い音に、菫子は、胸が騒ぎだした。
「くさい……キザったらしい」
ちょうどその時メールの着信音が鳴り響き、独り言を聞かれたような気分になって背を震わせた。
サブウィンドウには伊織と表示されている。
『……午後8時すぎに行くわね』
即座に返信をする。
『了解』
「菫子は文字のメッセージにも声を出すんやな」
涼がいつからそこにいたのか、全く分からなかった。
投げキッスを送った後からだろうか。
「いちいち腹が立つわね」
「何しても可愛いからええ」
「くっそー」
悔し紛れに呟くけれど、あははと涼は笑うだけだ。
菫子は立ち上がり、ぴょんと踵を浮かせて、くいくいと指を動かした。
背をかがめる涼に、
「いつか、ぎゃふんと言わせてやるわ」
耳元でささやくと、彼はしたり顔で頷いた。
「楽しみやなあ」
口を動かしながらも夕食の準備をてきぱきと始める涼を見て菫子も積極的に動いた。