Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)
12、優しい嘘(2)
いつだって、抱きしめてくれるのは伊織の方だったからこそ、
ありったけの想いをこめて、抱擁(ほうよう)する。
涙を流した後、幾分すっきりした顔で伊織は菫子に笑いかけた。
『……ありがとう。そろそろ菫子を草壁(くさかべ)君に返さなきゃね』
曖昧に微笑んで、頷いた。
涼のあの発言から、もう二週間が経つ。
そういえば、今週は一度も会っていなかったが、
会えない理由は上手くはぐらかされて聞けないでいる。
独りにさせてごめんなと届いたメッセージに彼の気持ちが表れている気がした。
「でも、寂しいよ……」
ぽつり、洩れた言葉に自分で驚いた。
口にすれば余計孤独を感じた。
遠距離恋愛のカップルはもっと会えないのだから贅沢だ。
会おうと思えば会える距離だから、寂しさが募るのだ。
失うのが恐ろしくなるのが怖くて、距離をつめるのが嫌だったのだ。
今でも友人のままなら、もっと気が楽なのだろう。
寂しくなったら抱いてやるだなんて、とっておきの殺し文句をくれたけれど、
実際そんなお願いをしたら、欲を抑えられないあさましい女だと思われるかもしれない。
心も体も、涼を求めていると自覚しながら肝心のことが言えない。
誕生日になれば絶対会えるという確信があるけれど、
声も聞かないままあと4日も待つことなどできない。
菫子は震える指先で、携帯の短縮機能で涼の番号を呼び出す。
何回かのコール音の後、涼は電話に出た。
『……涼ちゃん』
『菫子……』
お互い名を呼んだあと、数秒間沈黙(ちんもく)した。
『馬鹿。涼ちゃんなんて……涼ちゃんなんて』
何を言おうとしているのだろう。
声を聞けた安堵で、勝手に涙がこぼれてくる。
鼻をすすりながら、舌足らずの声で何度も名前を呼んだ。
『……すまん。言い訳になるかもしれんけど、
菫子に言えへん事情があったんや』
涙をぬぐいもせず、菫子は涼の声に耳を傾ける。
真摯な声音は、菫子を欺こうとしているようには思えない。
「……どうしても内緒にしなきゃいけないことなら言わなくてもいいよ」
「肝心な所で聞きわけよすぎるで。もっとわがまま言ってもええんやから」
「……そんなこと言われたら際限なく言っちゃうわよ!」
「うん」
「今すぐここに来て、抱いて」
必死の思いで、言葉にした。
「菫子が望むなら気のすむまで」
とびっきり甘い声音で、欲しい言葉を返してくれた。
また、頬を涙が滑る。
「うう……大好きなんだもん」
「声聞いたら飛んで行きたくなるから、我慢しとったけど、
そんなんせんかったらよかったかな」
自嘲する涼の声が届く。
「めっちゃ好きやで……本物のお前に会いたい」
「会いに来て」
涙交じりの声は、はっきりと涼に届いていた。
「……ああ」
電話を切って、涙を拭いた菫子は鏡の前に座った。
元気になる力をくれるのはいつだってメイク。
一度化粧は落としていたが、もう一度魔法をかける。
泣き顔をかき消して、少しでも綺麗な姿で、彼に会いたい。
ありったけの想いをこめて、抱擁(ほうよう)する。
涙を流した後、幾分すっきりした顔で伊織は菫子に笑いかけた。
『……ありがとう。そろそろ菫子を草壁(くさかべ)君に返さなきゃね』
曖昧に微笑んで、頷いた。
涼のあの発言から、もう二週間が経つ。
そういえば、今週は一度も会っていなかったが、
会えない理由は上手くはぐらかされて聞けないでいる。
独りにさせてごめんなと届いたメッセージに彼の気持ちが表れている気がした。
「でも、寂しいよ……」
ぽつり、洩れた言葉に自分で驚いた。
口にすれば余計孤独を感じた。
遠距離恋愛のカップルはもっと会えないのだから贅沢だ。
会おうと思えば会える距離だから、寂しさが募るのだ。
失うのが恐ろしくなるのが怖くて、距離をつめるのが嫌だったのだ。
今でも友人のままなら、もっと気が楽なのだろう。
寂しくなったら抱いてやるだなんて、とっておきの殺し文句をくれたけれど、
実際そんなお願いをしたら、欲を抑えられないあさましい女だと思われるかもしれない。
心も体も、涼を求めていると自覚しながら肝心のことが言えない。
誕生日になれば絶対会えるという確信があるけれど、
声も聞かないままあと4日も待つことなどできない。
菫子は震える指先で、携帯の短縮機能で涼の番号を呼び出す。
何回かのコール音の後、涼は電話に出た。
『……涼ちゃん』
『菫子……』
お互い名を呼んだあと、数秒間沈黙(ちんもく)した。
『馬鹿。涼ちゃんなんて……涼ちゃんなんて』
何を言おうとしているのだろう。
声を聞けた安堵で、勝手に涙がこぼれてくる。
鼻をすすりながら、舌足らずの声で何度も名前を呼んだ。
『……すまん。言い訳になるかもしれんけど、
菫子に言えへん事情があったんや』
涙をぬぐいもせず、菫子は涼の声に耳を傾ける。
真摯な声音は、菫子を欺こうとしているようには思えない。
「……どうしても内緒にしなきゃいけないことなら言わなくてもいいよ」
「肝心な所で聞きわけよすぎるで。もっとわがまま言ってもええんやから」
「……そんなこと言われたら際限なく言っちゃうわよ!」
「うん」
「今すぐここに来て、抱いて」
必死の思いで、言葉にした。
「菫子が望むなら気のすむまで」
とびっきり甘い声音で、欲しい言葉を返してくれた。
また、頬を涙が滑る。
「うう……大好きなんだもん」
「声聞いたら飛んで行きたくなるから、我慢しとったけど、
そんなんせんかったらよかったかな」
自嘲する涼の声が届く。
「めっちゃ好きやで……本物のお前に会いたい」
「会いに来て」
涙交じりの声は、はっきりと涼に届いていた。
「……ああ」
電話を切って、涙を拭いた菫子は鏡の前に座った。
元気になる力をくれるのはいつだってメイク。
一度化粧は落としていたが、もう一度魔法をかける。
泣き顔をかき消して、少しでも綺麗な姿で、彼に会いたい。