Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

epilogue2 15-2「Honey」(4)

 泣きそうになるくらい優しい調子で言われ、胸が高鳴った。
 緩く笑って、涼の手を握る。
 いつも最後は、彼が菫子の望む世界へと連れて行ってくれる。
 世界を染め上げるのはお互いの姿だけ。
 そして、波にのまれて、魂までもひとつになった。


「寝坊しすぎた…… ! 」
 携帯で昼だというのを知り愕然とする。
「今日、半年記念やろ。とりあえず菫子の願いは、叶えたと」
「う……まあ、前夜から朝まで過ごしているわけだしね」
「夜までずっと一緒にいれるんやから、まだまだいちゃいちゃしよ」
「……あはは」
 笑ってしまう。
 腕枕は心地よくて身を預けていると、眠りに誘われるようだ。
 おまけに、髪も梳かれているのだから眠っていいといいのだと判断した。
こうしているだけでもいちゃいちゃなのだ。
「……いちゃいちゃするのは夢の中でいいよね」
 告げて、涼の胸にしがみついた。
 固く抱き寄せられて、笑みを浮かべる。
「俺も寝よ」
 頬にキスを落とされ、眠りに誘われていった。

 起きた時は既に午後三時を過ぎていて、遅めの昼食を兼ねてホットケーキを焼いた。
 バターを乗せて蜂蜜をかけた濃厚なやつだ。
「あーんして」
 口の前にはフォークを突き刺したホットケーキ。
 小さく口を開けると無造作に放り込まれた。
「……自分で食べるのに」
 もごもごと咀嚼(そしゃく)して飲みこんだ後、涼を恨めしげに見つめた。
「まあまあ。こんなべたべたなのも大切なんやから」
 意味不明だが、許すとしよう。
 記念日というものをことごとく大事にしてくれるマメさにも惚れ直したのだから。
 半年を越えて、これからも色んな特別な日を重ねていくのだろう。
「はい、涼ちゃんも、あーん」
 涼の口元に持っていくとあんぐりと大口が開いた。
「……うまっ」
 嬉しくて仕方がないという風に微笑む涼を見ながら、
 ホットケーキを食べると美味しさが何倍にもなる気がした。
「……ありがとう」
 唐突な言葉に涼は首をかしげた。
「何が? 」
「プレゼント。ちゃんとお礼言ってなかったよね」
「菫子が喜んでくれたからそれでええんや。 ほんまは強引すぎたかなって思ってたし」
「そんなことないよ」
 ふんわりと微笑んだら、強く抱きしめられた。
 ガタン。
 椅子が軋む。
「……喜んでくれてひと安心や」
 瞳を閉じると、唇が重なる。
「大好きよ……ダーリン」
 自分でも驚くくらい甘い声が出た。
 涼みたく冗談ぶってみたのだが。
「俺もめっちゃ好きや……ハニー」
 視線が絡んだ瞬間、笑い合った。
 あたたかな腕の中にいたい。
 これからもずっと。
 この先の未来は不透明(ふとうめい)でも、隣りにいるのは涼しか思い浮かばない。
 惹かれて、夢を見て、堕ちた最愛の恋人。



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