Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

番外編「額の上に友情のキス」(2)

涼が中庭のベンチにいるのは偶然ではない。
 きっと、本能の部分で彼を求めて微かな期待を込めて
 ここに足が向いてしまっているのだと菫子は、思い至った。
(何でいるのかだなんて、馬鹿みたいね)
「あ、ああ」
「大分早く来ちゃったから時間潰してたのよね」
「よう分かるな」
「だって知ってるもの」
 菫子は謎めいた微笑を浮かべた。
 ーあなたを見ているからー
 風が流れる。
 落ち葉が散り始めていた。
 かえでの黄色が目にまぶしくて痛い。
「毎日やもんな。菫子も気づくわ」
 屈託なく笑った瞳は、何も知らないのだ。
 胸を切なく焦がしている董子の気持ちなんて。
「そうよ。分かりやすいんだもん」
 こんな分かりやすい場所で、堂々と待ち合わせている。
 決してこそこそしたりせずいつもオープンな二人。
 涼たちカップルが羨ましくて、とても憧れていた。
 今のままで十分だ。友達である関係を失いたくない。
「季節を感じられるからここがええんや」
「分かるよ」
 少しでも同じ時間を共有したいけれど、あまり長く居座ると
 ぬくもりが残ってしまう気がして、菫子は焦燥に煽られた。
 たわいもない冗談や、くだらない馬鹿話をしていると、
 この空間だけ切り取られた別空間だなんて錯覚を起こす。
 妄想だ。
 精悍(せいかん)な横顔を食い入るように見つめた。
 笑いながら、話に夢中になっていない私。
 話よりも涼自身に夢中になっていた。
 恋する気持ちをくれた人。
 陽気で正義感が強くて頼もしい、
 見かけだけでなくて全部大きなこの人のことがいとしくて、心は泣きそうだった。
 楽しいから、反対にむなしくて、どうしていいのか分からない。
 涼から借りたばかりの本を開いて顔を隠した。
 話の勢いは止まらなくて、涼は菫子の様子にきづかない。
 うつむいて顔をうずめていると髪が背で揺れる。
 うつむいた姿勢だと小柄な菫子はますます小さく見えた。
 ぎゅっ。
 背表紙を掴む手に力を込める。
 指先が震えている。
(やだ、どうして。
 止まって。お願いだから)
 はっとした時には手のひらを掴まれていた。
 驚いて、思いのほか強く振り払う。
 その拍子に手を滑らせ、本はベンチから地に落ちた。
 
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