Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

番外「最後の夜」(2/恋人の続編・過去の恋話)


「薫、菫子が三人で会おうって言ってるんやけど? 」
「待ち合わせの時間は決まってるの? 」
「17時や」
「そっか」
 暫し逡巡(しゅんじゅん)し、どうしようか考えていた。
「薫?」
 涼の声が返事を求めている。ふっと笑みが浮かんだ。
「用事があるから先に帰るわ。
 菫子ちゃんにもよろしく伝えておいて」
 これから私は性質(たち)の悪いことをする。
 自覚があるのだからまだマシというものだろう。
 実験は既に始まっていた。
 大学内から出ると適当な場所に身を潜ませる。
 暫く待っていると菫子ちゃんが出てきた。 
 それに続いて涼が出てくる。
 待ち合わせの時間ぴったりだ。
 いつだって彼は時間に遅れたことはなかったことを思い出す。
 何か話しているがここからでは声は聞こえない。
 目的地がはっきりした所で逆方向から同じ場所を目指す。
 二人の姿が次第に遠ざかった。
 かなり大回りになるが離れて行動しなければ見つかってしまうからしょうがない。
 河川敷が見えてくると、二人が並んで階段に座っている様子が視界に捉えられた。
 涼と菫子ちゃんは、立ち上がって話しこんでいる。
 まさか見ているなんて思いもよらないだろう。
 橋を渡っていく。
 沈みかかっている陽が目に眩しい。
 一歩一歩近づくほどに胸の鼓動がうるさくなる。
 さらりと髪をかきあげながらゆっくりと歩を進めた。 
 涼が気づいたらしくこちらに手を振った。
 繋いでいた菫子ちゃんの手が離れる。
 満たされた気分で涼に駆け寄った。
 背中に腕を絡めるが、欲しい腕は背中にない。
 肩に頬を寄せる。
「菫子ちゃん、涼はもう返してね。
 今からは恋人同士の時間だから」 
 女っぽい行動は嫌悪していたはずが、自分から女の匂いをさせている。
 怖いのは涼や菫子ちゃんよりも変ってしまった自分自身だ。
「薫さん、そんなに守らなくても取ったりしないよ」
 菫子ちゃんの声は、私の声よりも強く響いて聞こえた。
 彼女の強さを見せつけられた気分だ。
 歯軋りしたくなるのを堪えるのに必死だった。
 足音が遠ざかり菫子ちゃんの姿が消えた時、背中に回された腕を感じた。
 まるで彼女に見られるのを嫌悪しているかのようだ。
「用事あったんやないん?」
「もう済んだわ」
 目的は果たせた。
「行こうか」
 涼の腕に腕を絡め歩き出す。
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