Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)
番外「最後の夜」(3/恋人の続編・過去の恋話)
脳裏に響くのは強い菫子ちゃんの声。
その表情を見ていないのに、口元をつり上げて笑う姿まで想像できた。
嫉妬するぐらい強くて、へこたれない。
あんな台詞を放った私の方が惨めだった。
勝負にもなっていなかったのだ。
無理矢理自分の中で納得させれば意外にすんなり割り切れる。
心が一定方向に動き出す。
何で早くこうしなかったか諦めの悪かった自分自身を嘲笑う。
涼にしがみつけば支えられた。
お店でワインを買って、涼の部屋に向かった。
馴染み深い部屋。
さして広くもないが、物も置いていないので狭くは感じない。
「腹減ったな。パスタでも作ろうか」
「そうね」
私が手伝って、涼が作る。
定番のパターン。
これが最後の晩餐になるだろう。
このまま別れずずるずると続けても虚しく醜いだけだ。
きっぱり告げる自信はないから、別れるように仕向けよう。
頭の中で繰り返されるシミュレーション。
冷静な脳内は、別れた後のことまで考えていた。
火にかけた鍋にパスタを放り込んでいる涼の隣で
私はサラダを作っていた。
適当に盛りつけたサラダと、パスタをテーブルに並べる。
お互い一言も話さずに黙々と食事を終えて、後づ付けも済ませると
寄り添い合った。
肩に頬を寄せていると、似合いもしない涙が落ちそうになるから顔を上げた。
頭を撫でる仕草はとても優しい。
「ねえ。私が煙草吸ってても平気なの?」
「俺の側で吸わんし匂いにも気をつけてるやん。
マナーが悪かったら腹立ったかもしれへんけど」
「そう」
一年あまり付き合っていても内面の全てを知っているとは言い難い。
穿った考え方をすれば、他人の全てを理解し受け入れる人間などいないのだ。
部屋にはお互いの呼吸と、掛け時計の音と時々外を通る車の音。
「涼……」
陽気な涼が、さっきから一言も発しない。
胸の中に抱いていた違和感が弾けたと思った。
涼の腕を掴む手に力を加え爪を立てる。
もう一方の手がそっと掴まれて握り締められた。
骨ばった手の感触に男らしさを感じる。
涼を形成するパーツで一番好きな部分が手だった。
背の高さだって好きだけれど。
素肌に触れられたいし触れたいといつだって思ってた。
「……抱いて」
涼の瞳が見開かれ、握られていた手の感触が強くなった。
意味を理解できない初(うぶ)な男ならいっそよかったのに。
私はあの時からずっと好きだったのよ。
抱かれた記憶が、想い出となって縛りつける。
「俺はお前をこれ以上傷つけたくない」
勝手だがそれを涼から言われると余計辛い。
もっと物分かりの悪い身勝手な男だったらさっさと振っていただろう。
「忘れられない傷になったって、涼から与えられるなら私はそれでいいわ」
その表情を見ていないのに、口元をつり上げて笑う姿まで想像できた。
嫉妬するぐらい強くて、へこたれない。
あんな台詞を放った私の方が惨めだった。
勝負にもなっていなかったのだ。
無理矢理自分の中で納得させれば意外にすんなり割り切れる。
心が一定方向に動き出す。
何で早くこうしなかったか諦めの悪かった自分自身を嘲笑う。
涼にしがみつけば支えられた。
お店でワインを買って、涼の部屋に向かった。
馴染み深い部屋。
さして広くもないが、物も置いていないので狭くは感じない。
「腹減ったな。パスタでも作ろうか」
「そうね」
私が手伝って、涼が作る。
定番のパターン。
これが最後の晩餐になるだろう。
このまま別れずずるずると続けても虚しく醜いだけだ。
きっぱり告げる自信はないから、別れるように仕向けよう。
頭の中で繰り返されるシミュレーション。
冷静な脳内は、別れた後のことまで考えていた。
火にかけた鍋にパスタを放り込んでいる涼の隣で
私はサラダを作っていた。
適当に盛りつけたサラダと、パスタをテーブルに並べる。
お互い一言も話さずに黙々と食事を終えて、後づ付けも済ませると
寄り添い合った。
肩に頬を寄せていると、似合いもしない涙が落ちそうになるから顔を上げた。
頭を撫でる仕草はとても優しい。
「ねえ。私が煙草吸ってても平気なの?」
「俺の側で吸わんし匂いにも気をつけてるやん。
マナーが悪かったら腹立ったかもしれへんけど」
「そう」
一年あまり付き合っていても内面の全てを知っているとは言い難い。
穿った考え方をすれば、他人の全てを理解し受け入れる人間などいないのだ。
部屋にはお互いの呼吸と、掛け時計の音と時々外を通る車の音。
「涼……」
陽気な涼が、さっきから一言も発しない。
胸の中に抱いていた違和感が弾けたと思った。
涼の腕を掴む手に力を加え爪を立てる。
もう一方の手がそっと掴まれて握り締められた。
骨ばった手の感触に男らしさを感じる。
涼を形成するパーツで一番好きな部分が手だった。
背の高さだって好きだけれど。
素肌に触れられたいし触れたいといつだって思ってた。
「……抱いて」
涼の瞳が見開かれ、握られていた手の感触が強くなった。
意味を理解できない初(うぶ)な男ならいっそよかったのに。
私はあの時からずっと好きだったのよ。
抱かれた記憶が、想い出となって縛りつける。
「俺はお前をこれ以上傷つけたくない」
勝手だがそれを涼から言われると余計辛い。
もっと物分かりの悪い身勝手な男だったらさっさと振っていただろう。
「忘れられない傷になったって、涼から与えられるなら私はそれでいいわ」