Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)
番外「最後の夜」(4/恋人の続編・過去の恋話)
はっきり口に出したつもりが最後は掠れた。
ぎりと唇を噛み締める。
「そんな顔、薫らしくない……いやそこまでお前を知らんな」
どこか遠くを見つめる涼。
結局お互いに素を見せてなかったということか。
「そうね。私もあんな楽しそうに笑う涼知らなかったもの」
菫子ちゃんの隣りで少年達の野球をする様子を眺める涼は、
私には決して見せない顔で笑っていた。
「俺かて強いお前も好きやったけど弱い姿だって見せて欲しかったんやで」
本音で付き合っているかに見えて実は、お互いの心ごと預けてはいなかった。
「何かに負けちゃう気がしてたの。今から考えると馬鹿みたいね」
「……いや」
躊躇いがちに顔を上げると涼は苦しそうな顔をしていた。
すっと真摯な表情になると、
息がつまるほどの勢いで体を包まれた。
涼の想いが詰まった抱擁。
私の心は確かに抱かれていた。
そっと腕の中から抜け出すと、唇を重ねる。
呆気に取られている涼に笑い、深く口づけを交わした。
(一瞬でこちらの意識を絡めとるキスを何度もしてくれた)
「餞別くらいくれたっていいじゃない?」
涼がふっと優しい眼差しになる。
「何か、今までで一番可愛かった」
ぽろっと呟かれた言葉に瞳を丸くする。
欲しい言葉をちゃんとくれるんだから、ヤになるわ。
「忘れられなくなったら、会いに来てもいいわよ」
「……そやな。考えとく」
「冗談に決まってるじゃない。未練たらしくしがみついたりしないから安心して。
そういうの大嫌いだから」
くすっと笑う。
口を上げて笑っていなければ、途端にぼろが出そうだった。
どうせなら、あなたが知る強い私で別れてあげるわ。
「じゃあね。ちゃんと自分の気持ちに素直にならなきゃ駄目よ」
耳元でささやいて立ち上がる。
放り出された涼の腕が空を切った。
「薫」
聞き慣れた男の声が背中に放たれたのを振り切る。
バッグを持って、部屋を出ると早足で歩き始めた。
歩を緩めることなく、空を見上げながら。
指だけが酷く凍えていた。
寒さではなく解けた温もりで。
自分の部屋に戻ると、ベッドに横たわる。
堪えていた感情が、熱い液体となって流れ出していく。
涼は私のことをちゃんと好きだったのだ。
勝手にやきもきしている間に涼の心が、離れてしまったのかもしれなかった。
(何が違和感だ。自分から近づこうともせずに。
ほんと、遅すぎたな)
今頃はようやく自分の本当の気持ちと向き合えているだろうか。
あのお人よしのことだから私を傷つけたことを悔いているか。
「馬鹿ね。後は自分が素直になるだけなのよ」
明日が楽しみだ。
この恋の後始末をして、
新たな自分に生まれ変われる。
涙は我慢しない。
生きていくには泣く事だって必要だろう。
涼はお調子者のようで頼れる男だったから。
一つだけ言えることは、出会いも付き合ったことも
後悔なんてしていないということだ。
私が好きになったほどの男なんだから自信持ちなさい?
そこまで言ってやる必要はないから絶対言わないけどね。
次に付き合うなら私がいてあげなきゃどうしようもないような男がいい。
そんな男に変えてみるのも面白そうだ。
とりあえず最後に意地悪をしてみようかしら。
憎みきれないほど可愛いくて、嫌いだけど大好きな彼女に。
ぎりと唇を噛み締める。
「そんな顔、薫らしくない……いやそこまでお前を知らんな」
どこか遠くを見つめる涼。
結局お互いに素を見せてなかったということか。
「そうね。私もあんな楽しそうに笑う涼知らなかったもの」
菫子ちゃんの隣りで少年達の野球をする様子を眺める涼は、
私には決して見せない顔で笑っていた。
「俺かて強いお前も好きやったけど弱い姿だって見せて欲しかったんやで」
本音で付き合っているかに見えて実は、お互いの心ごと預けてはいなかった。
「何かに負けちゃう気がしてたの。今から考えると馬鹿みたいね」
「……いや」
躊躇いがちに顔を上げると涼は苦しそうな顔をしていた。
すっと真摯な表情になると、
息がつまるほどの勢いで体を包まれた。
涼の想いが詰まった抱擁。
私の心は確かに抱かれていた。
そっと腕の中から抜け出すと、唇を重ねる。
呆気に取られている涼に笑い、深く口づけを交わした。
(一瞬でこちらの意識を絡めとるキスを何度もしてくれた)
「餞別くらいくれたっていいじゃない?」
涼がふっと優しい眼差しになる。
「何か、今までで一番可愛かった」
ぽろっと呟かれた言葉に瞳を丸くする。
欲しい言葉をちゃんとくれるんだから、ヤになるわ。
「忘れられなくなったら、会いに来てもいいわよ」
「……そやな。考えとく」
「冗談に決まってるじゃない。未練たらしくしがみついたりしないから安心して。
そういうの大嫌いだから」
くすっと笑う。
口を上げて笑っていなければ、途端にぼろが出そうだった。
どうせなら、あなたが知る強い私で別れてあげるわ。
「じゃあね。ちゃんと自分の気持ちに素直にならなきゃ駄目よ」
耳元でささやいて立ち上がる。
放り出された涼の腕が空を切った。
「薫」
聞き慣れた男の声が背中に放たれたのを振り切る。
バッグを持って、部屋を出ると早足で歩き始めた。
歩を緩めることなく、空を見上げながら。
指だけが酷く凍えていた。
寒さではなく解けた温もりで。
自分の部屋に戻ると、ベッドに横たわる。
堪えていた感情が、熱い液体となって流れ出していく。
涼は私のことをちゃんと好きだったのだ。
勝手にやきもきしている間に涼の心が、離れてしまったのかもしれなかった。
(何が違和感だ。自分から近づこうともせずに。
ほんと、遅すぎたな)
今頃はようやく自分の本当の気持ちと向き合えているだろうか。
あのお人よしのことだから私を傷つけたことを悔いているか。
「馬鹿ね。後は自分が素直になるだけなのよ」
明日が楽しみだ。
この恋の後始末をして、
新たな自分に生まれ変われる。
涙は我慢しない。
生きていくには泣く事だって必要だろう。
涼はお調子者のようで頼れる男だったから。
一つだけ言えることは、出会いも付き合ったことも
後悔なんてしていないということだ。
私が好きになったほどの男なんだから自信持ちなさい?
そこまで言ってやる必要はないから絶対言わないけどね。
次に付き合うなら私がいてあげなきゃどうしようもないような男がいい。
そんな男に変えてみるのも面白そうだ。
とりあえず最後に意地悪をしてみようかしら。
憎みきれないほど可愛いくて、嫌いだけど大好きな彼女に。