Pleasure Treasure(プレジャ、トレジャ)

3、君の隣で眠らせて(☆)


  朝の陽射しの眩しさに瞼を擦る。
 となりの彼はまだ寝ているらしく、身動き一つしない。
 浅い息遣いと、寝顔が未だ目覚めていない何よりの証拠。
 体格差の為、腕の中から脱け出すのも一苦労だったのだ。
「ん……」
 そうっと体を揺すって反応を試すが、寝ぼけているようだ。
 ちょっとしたいたずらを思いつき彼女は彼の頬に顔を近づける。
 リップノイズが響くとさすがに彼女は顔を赤らめた。
 ゆっくりと顔を離そうとすると、ぐいと押さえつけられる。
「!」
 寝ていたはずの者が目を開けているどころか口元に笑みを刻んでいる。
「お、はよ」
「朝から可愛いことすんなや」
「私は涼ちゃんを起そうと思っただけよ」
「友達だった時とも付き合いだした頃とも随分ちゃうな」
「友達への態度と相思相愛の人への態度が同じなわけないでしょ」
 菫子はあっさり切り返す。
 二人は息がかかる距離で会話をしている。
 とばっちりは食らいたくないときっと誰もが思うに違いない。
「腕、離して?」
 恥ずかしそうに身を捩る菫子に、
新妻以上にいたずら好きな旦那様は、企んだ顔で、
「ほんま、わかってないわ」
 新妻の肩を掴む腕に力を込める。
「っ……ちょっ、……」
 数ミリほどしか離れていなかった距離が埋まる。
 体を引き寄せられ、涼の上に倒れこむ。
「初めて同じ朝を迎えた二人やないんやから」
 笑う声にだってと呟く妻・菫子。
「時々犯罪犯してる気分になるんやで。何か子供抱いてるみたいで」
 菫子はずきっと胸が痛んだ。
 小さいなあと何度も言われているがさすがにこの発言はショックだった。
 コンプレックスは彼が、消してくれたはずだったのに。
「私、そんなに子供みたい?」
「安心せえ。ちゃんと大人の女や」
「……ん……」
 確かめるような激しい口づけ。
 菫子は吐息が漏れるのをごまかせなかった。
「ほら」
「もうっ」
 背中に回された腕の熱さに菫子は戸惑う。
 あれだけ愛し合っておきながら、彼の熱は未だ冷めていない。
 菫子を求める熱。
  先ほどの口づけのときにも感じていた。
「菫子」
 涼の手が髪に触れ、梳いてゆく。
 菫子には彼の手は魔法の手だった。
 どんな櫛で梳くよりもずっと綺麗になる。
 菫子は涼の仕草に酔っていた。
「涼ちゃん?」
 菫子は不安になって名を呼んだ。
 今まで離そうとしても離してくれなかった腕が、急に離れたから。
 呆然としている間にも涼は起き上がり、ベッドから抜け出た。
 ふいをつく涼の行動に菫子は一抹の寂しさを覚える。
 涼本人に他意はないのだが、取り残されたような気がした。
 菫子は目を細めて涼を見つめる。
「泣きそうな顔しとる」
「っ」
菫子は、結婚した現在も過去に捕らわれることがある。
 自分の悪いクセだと自覚しているのに直せない。
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