バンパイア君は私に甘々でメロメロ
(仕事に集中しなきゃ)

すみれはあからさまに黒川を避けるようになった。
目が合いそうになると、書類を睨むふりをしたり、他の社員に話しかけてその場を離れたり。
黒川が近づく気配を感じるだけで、いなくなろうとした。


夜に膝へ落ちた熱い舌。
耳元に低く甘い声。
そして――「次、キスは拒否しないでくださいね」

思い出すたび、頬が熱くなる。

(こんなの、私じゃない……)

なのに、黒川はまるで気づかないふりをして、いつも通りに話しかけこようとする。

「先輩、この資料見ました?」

「……忙しいから後にして」

「冷たい」

「忙しいの」

「冷たい」

黒川は愛おしそうに目を細める。

(あぁもう……なんでそんな目でみるの……!)

甘い視線。
全部、黒川はわざとだ。

分かってしまう。だから、すみれの心は乱されてしまう。

(私が私じゃなくなっちゃう……)

仕事に没頭しなくちゃ。
目の前の数字や書類に意識を押し込める。

けれど、

視線を感じて顔を上げると――
少し離れた席から、黒川が静かに、すみれを見つめている。

誰にも見せない、やわらかく甘い目で。
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