バンパイア君は私に甘々でメロメロ
次の日。

朝のオフィスは、昨日までと変わらず静かで、パソコンのタイピング音が規則正しく響いていた。

すみれは、自分のデスクに座りながら、しきりに視線をそちらへ送ってしまう。

――黒川香月。

昨日、自分の血を舐めた男。

でも当の本人はというと――

「椎名先輩、この資料、確認お願いします」

「えっ…あ、うん」

黒川は、まるで昨夜のことなんて一切なかったかのように、いつも通り無表情で書類を差し出してきた。声も仕草も、普段の黒川くんそのもの。

「え、あの、黒川くん…昨日、その……」

思わず口にしかけたすみれを、黒川はきょとんとした目で見つめた。

「昨日、何かありましたか?」

「…………」

その真顔に、すみれは言葉を失う。

(いやいや、あるでしょう!? むしろありすぎでしょう!?)

すみれは心の中で全力でツッコむが、口から出てくるのは弱々しい声だけだった。

「……ううん。なんでもない」

「そうですか」

黒川はふっと微笑むと、軽く会釈して自分の席に戻っていった。

その笑顔がまた妙に爽やかで、昨夜の妖しく紅い瞳を思い出すほどに、すみれの顔はどんどん熱くなる。

(うわぁ…意識しちゃうじゃん、こんなの…)

パソコンの画面を見つめながらも、脳裏には黒川の低い囁き声が蘇る。

「やっぱり先輩の血、美味しい…」

「~~~~~っ!!」

思わず机に突っ伏すすみれ。

同僚に「椎名さん大丈夫ですか?」と心配されるも、まともに顔を上げられないのだった。
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