バンパイア君は私に甘々でメロメロ

2

すみれは、混乱した頭を抱えたまま、デスクに広がる書類をなんとか整理しようとしていた。

(ダメだ……全然集中できない)

思い出すのは、黒川の熱い舌、甘い囁き、そして――なにごともなかったような今朝の態度。

(…夢だったんじゃないの?)

いや、でも膝の絆創膏がそれを否定していた。今もほんのりひりつくその場所に、熱が蘇る。

(もう…どうにかして…)

すみれは一息つくために、立ち上がった。

「倉庫に書類整理、行ってきます」

上司に軽く声をかけ、ファイルを抱えてひんやりとした社内の倉庫へ向かう。

雑然と積まれた段ボールと棚の隙間で、静かに深呼吸をする。

(うん、ここなら少し落ち着ける……)

そう思って、キャビネットに手をかけたそのとき

「……何してるんですか」

――声がした。

「っ!」

反射的に振り返ると、薄暗い棚の影から、黒川がすっと現れた。

目が合う。やっぱり、あの紅い瞳。冷たいようで、どこか熱を秘めた視線。

「く、黒川くん……なんでここに…」

「資料整理ですよ」

すっと目をそらし、そっけない声でそう言った。

その冷たい態度に、すみれの胸の中が急にざわついた。

(なんだろう、この虚しさ……)

じわじわと気持ちが沈んでいく。

すみれは、書類を必死に整理するふりをしながら、頭の中ではぐるぐると思考が渦巻いていた。

(私ばっかり、バカみたいにドキドキして…)

悔しさと恥ずかしさが、押し寄せてきた。

――でも、もう気にしない。気にしない。

そう自分に言い聞かせて、書類に視線を落とし続けた。

けれど、ふと気配を感じて顔を上げた瞬間。

「――っ!!」

目の前には、すぐそこに黒川の顔があった。
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