バンパイア君は私に甘々でメロメロ
それから数日。

黒川はやっぱりすみれを避けたままだった。
視線も、言葉も、必要最低限しか向けてこない。

(これでいいはずなのに……なんで、こんなに胸が痛いの)

そんな自分をごまかすように、すみれはその日も残業をしていた。
気づけば時計の針は、22時を回っていた。

「……はぁ。やっと終わった……」

すみれは伸びをして席を立つ。
帰り支度をしながらふと視界の端に、廊下の奥の光が目に入った。

(あれ……?)

本来、誰もいないはずの時間。
なのに会議室の電気が煌々とついている。

不思議に思ってドアに近づき、そっと中を覗き込んだ瞬間――

「……黒川くん……?」

中には、黒川がひとり、机に突っ伏していた。
ぐったりと肩を落とし、机の上には資料が散らばっている。

すみれは息を呑んだ。

(え……なに……?)

声をかけるか迷ったが、心配が先に立つ。

「黒川くん?」

そう言うと、黒川がびくっと身を震わせた。

「……先輩……」

顔を上げた黒川の目は赤く、疲れきっているように見えた。
すみれは、とっさに呟いた。

「……大丈夫? 顔色悪いよ」

「大丈夫です」

「……いやいや、大丈夫じゃないでしょ」

「……先輩には関係ないんで」

黒川は、また目を逸らそうとする。
けれどすみれは、黒川の腕を掴んだ。

「関係あるよ」

黒川が驚いたように、すみれを見返す。

「だって……後輩が、こんな顔してるの、放っとけないよ」

一瞬、黒川の目が揺れた。
けれどすぐに、意地を張るように口を開く。

「……優しくしないでください」

「なんで」

「……期待します」

低く漏れる声。
すみれは息を呑んだ。
心臓がバクバクとうるさい。

しばらく沈黙が流れる。
会議室の蛍光灯が、静かに二人を照らしていた。
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