バンパイア君は私に甘々でメロメロ
冗談かもしれない。
けれど――冗談にしては、黒川の顔色が悪すぎた。
息も浅くて、目の焦点も少し合わない。

(本当に……苦しそう……)

すみれは唇をきゅっと噛み、心を決めた。

「……いいよ」

その言葉が自分の口から出た瞬間、心臓がどくん、と跳ね上がる。

黒川が驚いたようにすみれを見つめた。

「先輩……」

すみれは小さく笑う。

「……ほら。昨日、紙で切ったときの、傷……」

右手中指には、まだかすかに赤い切り傷が残っていた。
黒川はそれを見つめると、息を呑むように喉を動かした。

「ほんとに……いいんですか」

「……冗談にしては、黒川くんの顔色が悪すぎるから」

黒川は一瞬、悲しそうに笑った。

「……やっぱ、先輩優しい」

そしてすみれの指を、そっと両手で包み込む。
まるで宝物でも扱うように。

次の瞬間。

黒川は、すみれの右手中指に唇を寄せた。

「……んっ……」

すみれが思わず息を呑む。
黒川の舌先が、傷の部分を、ゆっくり、丁寧になぞった。

ちろ、と小さく掬うような感触。
わずかな血の香りが空気に溶ける。

黒川の長いまつげが震え、瞳を閉じるその横顔は、どこか切なくて、美しかった。

「……ぁ……」

すみれは、声を堪えられないまま目を伏せる。
微かに感じる熱と、ぬるりとした感触に、心臓が早鐘を打った。

やがて黒川はそっと唇を離す。
吐息を落としながら、すみれの指先を見つめた。

「……やっぱり先輩の血、美味しい」

黒川が、かすかに笑った。
その目には、先ほどまでの苦しげな影は、もうなかった。

すみれは赤くなった頬を隠すように顔を背けた。


「ありがとうございます、先輩」

黒川の甘く低い声が、耳に心地よく響いた。
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