バンパイア君は私に甘々でメロメロ
手の指先はまだ熱くて、胸の鼓動が全然落ち着かない。

(なにあれ、なにあれ……っ)

「……も、もう帰るね」

くるっと背を向けて、逃げるように会議室のドアに向かう。
でも、ドアノブに手をかけたそのとき――

「……ちょっと待ってください」

すぐ背後に、黒川の気配。

「え……?」

振り向いた瞬間、黒川の腕がすみれの肩に回された。
そのまま、背中を壁に押しつけられる形になる。

「っ……黒川くん!?」

「まだ、足りないんですけど」

真っ赤になったすみれの顔を、黒川がまっすぐ覗き込む。
その瞳は、もうさっきまでの弱々しさなんて微塵もなくて、すみれをじっと射抜くように熱かった。

「ま、まって……! だ、だめっ!」

「なんで?」

「……だって、ここ会社、だし……!」

「関係ないっす。俺、もう抑える気ないんで」

ぐっと距離を詰める黒川。
黒川の顔が近づいてくるのに、振り払えない。

「おーい! まだ人いるのかー!? 今、警備締めるぞー!」

間延びした声が響いた。

「……っ!」

二人が同時に振り向くと、ビルの守衛さんが会議室の扉を開けるところだった。
顔は思いきり見覚えのある常連のおじさんだ。

「……先輩、逃げましょう」

「な、なんで私が……!」

「強制退場です」

黒川がすみれの手を掴み、そっと引いた。
すみれは困惑しながらも、笑いを噛み殺して立ち上がる。


慌てて会議室を出る二人の背中に、守衛さんの声が響く。

「熱いのは外でやれー!」
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