バンパイア君は私に甘々でメロメロ
その日、夕方。
黒川はずっと不機嫌だった。

会議の最中も、モニター越しの相手に必要以上に冷たい対応をするし、報告書の言葉遣いもどこかトゲがある。

そして、誰もいないタイミングを見計らって、ついに――

「先輩、ちょっと」

すみれがコピーを取りに行こうと席を立った瞬間、黒川が腕を掴んできた。

「な、なに……?」

「まだ話、終わってませんよね」

低く押し殺した声。
怒ってる――明らかに。

「あの、さっきのことなら、ほんとに――」

「先輩のそういうとこ、ほんと無防備で困ります」

「え……」

「他の男の前で、あんな顔しないでください」

黒川は壁にすみれを押しやるようにして、そっと距離を詰めてきた。
視線は真っ直ぐで、怒っているけど、どこか切なげでもある。

「俺の目の前で……他の男に笑いかけるとか、ほんと、無理なんで」

「……っ」

「好きとか言ってくれないなら、せめてそういうの、やめてください」

(……ちがうのに)

すみれの胸がぎゅっと締めつけられた。
言わなきゃいけない。ちゃんと、伝えなきゃ。


すみれは黒川の胸元を見つめながら、少しだけ震える声で続けた。

「……黒川くんのこと、考えてたから、だよ」


黒川の目が揺れた。

「早瀬先輩に言われたの。『恋してる顔してる』って……図星だったから、恥ずかしくなっただけ」

「……」

「あなたのことを考えてたのに、あなたに誤解されて……なんか、悔しい」

その一言に、黒川の中で、何かがはじけた。

「……ずるい、先輩」

「え……?」

「そうやって、こっちだけ振り回しておいて……ちゃんと好きって言わせようとするの」

「言わせようとしてなんか……っ」

黒川は顔をすぐ近くまで寄せてきて、すみれの耳元に甘い声でささやいた。

「……先輩が、好きです。ずっと、ずっと好きでした」


顔が爆発しそう。なのに心は、どこまでも嬉しくて。

「……金曜、絶対来てください」

「……うん」

「逃げたら、先輩の家まで……いや、玄関で正座して待ちます」

すみれは、笑いながらうなずいた。
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