バンパイア君は私に甘々でメロメロ
黒川の家に着くと、エントランスはシンプルで、どこかホテルのように綺麗だった。

「どうぞ、上がってください」

「お、おじゃまします……」

すみれは靴を脱ぎ、そろりと中へ入った。

リビングへ通されると、棚にはずらりと漢方薬の瓶や、見慣れない薬草が並んでいた。
木箱に詰められた乾燥した花や根っこ、小瓶に詰められた液体。どれも不思議な香りを放っている。

「……なに、これ」

すみれが思わず呟くと、黒川はソファに腰を下ろし、真剣な顔で言った。

「俺の体質に必要なやつです」

「体質……」

「……この前も話しかけたけど、ちゃんと説明したいと思ってたんです」

黒川は一度目を伏せ、深く息を吐いてから続けた。

「俺の家系、ギリシャ系の曾祖父がいたんです。曾祖父は、ある地方で“夜にしか動けない人間”だって噂されてたらしくて」

「夜にしか……?」

「それで、祖父も、俺と同じで、日中に弱くて、血を舐めると元気になる体質だったらしいんです」

「……」

「血を飲まないといけないってほどじゃないけど、時々ひどい貧血を起こす。で、それを補うための薬とか漢方をずっと研究してたらしくて。これも、全部その家系の伝承とか、祖父が残したレシピです」

黒川の視線は薬棚に向けられたまま、どこか寂しそうだった。

「……信じられないですよね。普通に考えたら」

「……でも、黒川くんがほんとうに具合悪そうなの、知ってるから」

すみれは、そっと笑った。

「嘘じゃないって、わかるよ」

黒川の目が、ぱちりとすみれを捉える。

すみれは黒川の正面に腰を下ろし、じっと彼を見つめた。


「血をあげたら、それ以上のことしたくなっちゃうのは、どうしてなの?黒川くんのせいだからね」

黒川の顔が一瞬で赤くなる。
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