バンパイア君は私に甘々でメロメロ

3

夜。

すみれは待ち合わせの店の前で、落ち着かない様子でスマホの画面を見つめていた。

(これって…ただの食事、だよね?)

そう思いたいのに、心は落ち着かない。
昨日のことが頭から離れないし、さっきの倉庫での黒川の距離感も――思い出すたび、胸の奥が熱を持つ。

「先輩」

ふいに背後からかけられた低い声に、びくっとして振り向く。

「く、黒川くん…!」

現れた彼はスーツのままだったけど、いつもよりネクタイが少し緩められていて、どこか雰囲気が違う。

「すみません、待ちました?」

「い、今来たところ」

ついテンプレの返しをしてしまって、恥ずかしくなる。

黒川は小さく笑って、「じゃあ、行きましょうか」と先に立った。

予約されていたのは、落ち着いた雰囲気のビストロだった。
ほどよく照明が落とされていて、夜景の見える窓際の席に案内される。

「こういう店、黒川くんが選んだの?」

「はい。先輩、肉より魚派でしたよね?」

「……覚えてたんだ」

「観察してるんで」

さらっと言って、水を口に運ぶ仕草まで自然で。すみれの胸がまたドキンと鳴る。

料理が運ばれてくるまで、会話はゆるやかに流れる。
でも、気になっていた"話の続き"はまだ始まらない。

そして、前菜が終わった頃。

黒川が、グラスをテーブルに置いて言った。

「昨日のこと、覚えてます」

すみれの手がピタリと止まった。

「え…?」

「忘れたふりしたのは、先輩が混乱してたからです」

低く、静かに、それでも真っ直ぐな声。

「俺……本当に、吸血鬼なんですよ」

すみれは、胸の奥がぞわっと震えるのを感じた。

夜景のきらめきの向こうで、黒川の目が赤く光ったように――見えた。
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