「おまえほどの男、殺すには惜しい」と父に言われた敵国の王子の妻になりました
その瞬間、彼の眉がほんのわずかだけ、動いたように見えた。

「……わかった。」

ゼインは部屋を出て行く。

その背中を見送りながら、私はまだ震える手を静かに握りしめた。

しばらくして、ゼインが王太子の間に戻ってきた。

私はベッドの端に腰を下ろしていたが、彼の姿を見るなり眉をひそめた。

「……まだ顔、泥だらけよ。」

ゼインは無言でこちらを見てくる。

その表情はやっぱり変わらない。どこまでも無愛想。

「あなたね、まだお風呂に入ってなかったの?」

「ああ。」

あっさりと頷かれて、私はあきれてしまった。

「まさか……一人で入れないとか言わないわよね?」

言ったあとで気づく。

あり得るかもしれない、と。

一国の王だったんだ。

もしかして、侍女に体を洗わせてたとか?

「……誰も、風呂場を案内してくれない。」

「えっ?」

その言葉に、私は不意を突かれた。

「敵国の王には、侍女も毛嫌いするようだ。」

ゼインは、静かにそう言った。
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