「おまえほどの男、殺すには惜しい」と父に言われた敵国の王子の妻になりました
浴びるだけの湯、もしくは小さな湯桶程度が一般的だ。

けれど、アルディナは違う。

「ローマの……模倣か?」

ゼインがぽつりと呟いた。

「ええ。父王の趣味よ」

私は肩をすくめて答える。

「古代の文明が使っていたもの、価値があると聞けば、欲しくなるの。ダイアモンドと同じようにね。」

私は視線を湯の揺らめきに落とす。

「価値があるとなれば、手に入れずにはいられない。それが、あの人よ。」

「……なるほどな。」

ゼインはうなずいた。

「つまり俺は、その“コレクション”のひとつ、というわけか。」

皮肉めいた笑みを浮かべて言った彼に、私は思わず言葉を詰まらせる。

否定できなかった。

でも、肯定もできなかった。

ただ、静かな湯気の中に、ふたりの言葉がゆっくりと溶けていった。

「これが、石鹸。体を洗うスポンジはこれ。」

私は手早く説明しながら、ゼインにそれらを手渡した。

だが彼は、それらを手にしたまま――ぽかんと、見事に固まっていた。
< 18 / 62 >

この作品をシェア

pagetop