「おまえほどの男、殺すには惜しい」と父に言われた敵国の王子の妻になりました
指先に泡が広がっていくのを見て、ゼインは目を丸くしていた。

「……魔法みたいだな。」

「魔法じゃなくて、日常よ。」

そんな彼に、ふっと笑ってしまいそうになった。

まさかこの男に、こんな基本的なことまで教えることになるなんて。

でも、なぜだろう。

全然、嫌じゃなかった。

「まったく。あなたの侍女は、何も教えてくれなかったの?」

私が呆れて言うと、ゼインはしばらく黙ったまま、ぽつりと一言、つぶやいた。

「……石鹸自体がなかった。」

「えっ?」

耳を疑った。

王族に石鹸がない?どういうこと?

「どうやって体を洗ってたの?」

「貧しい国だったからな。水浴びのシャワー程度だ。洗うってより、流すだけだった」

私は言葉を失った。

まさか、そんな環境に“国王”がいたなんて。

ラグナリアはダイヤモンドを産出している国だったはず。

「何それ……。ダイヤモンド、売ればよかったのに。」

私がそう呟くと、ゼインはわずかに目を伏せた。
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